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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)571号 判決

平成八年(ワ)第五七一号 保険金等請求事件(以下「甲事件」という。)

平成九年(ワ)第一二七六号 保険金請求事件(以下「乙事件」という。)

主文

一  被告日動火災海上保険株式会社は、原告Bに対し、二二五〇万円及びこれに対する平成七年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被告第一火災海上保険相互会社は、原告Cに対し、五二〇万円及びこれに対する平成七年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被告神戸市民生活協同組合は、原告Dに対し、七五九万円及びこれに対する平成七年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  右原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告Bと被告日動火災海上保険株式会社との間で生じた分は、これを三分し、その一を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、原告Cと被告第一火災海上保険相互会社との間で生じた分は、これを八分し、その三を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、原告Dと被告神戸市民生活協同組合との間で生じた分は、これを九分し、その二を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、その余の原告らと被告らとの間で生じた分は、同原告らの負担とする。

五  第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別表一ないし三、四及び五の各1・2、六、七の1ないし3、八の1・2、九及び一〇の1ないし3(以下、併せて「本件各別表」という。)の被告名欄記載の各被告は、それぞれ同表原告名欄記載の各原告に対し、同表請求金額欄記載の各金員及び右各金員に対する原告Dについては平成七年四月一日から、その余の原告らについては平成七年四月二三日から各支払済みまでいずれも年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  共済金及び保険金請求(主位的)

(一) 当事者

(1) 原告株式会社西洋建物(以下「原告西洋建物」という。)は、平成七年一月一七日の兵庫県南部地震(以下「本件地震」という。)発生当時(なお、以下の日付は、特段の記載のない限り、いずれも平成七年である。)、その代表者Iが所有する別表九「保険の目的」欄記載の建物(以下「建物9」という。)を事務所として賃借して使用し、同建物内の家財・什器設備等(以下「家財9」という。)を所有していた者であり、その余の原告らは、本件地震発生当時、いずれも別表一ないし三、四及び五の各1・2、六、七の1ないし3、八の1・2及び一〇の1ないし3の各原告の「保険の目的」欄記載の各建物(以下、個別には、同表「原告番号」欄に従って「建物1」のように表示し《ただし、同一原告が二個以上の建物を有するときは、「建物1のア、同1のイ」のように表示する。》、建物9と併せて「本件各建物」という。)及び同建物内の家財・什器設備等(以下、個別には、同表「原告番号」欄に従って「家財1」もしくは「什器1」のように表示し《ただし、同一原告が二個以上の建物を有するときは、各建物内の家財・什器設備等を「家財1のア、同1のイ」のように表示する。》、家財9と併せて「本件各家財等」という。また、本件各建物と本件各家財等を併せて「本件各目的物」という。)をそれぞれ所有ないし占有していた者である。

(2) 被告全国労働者共済生活協同組合連合会(以下「被告全労済」という。)は、組合員の火災事故に際し、共済金を給付する等、組合員の共済を図る事業等を目的とする消費生活協同組合連合会であり、被告神戸市民生活協同組合(以下「被告市民生協」という。)は、組合員の火災事故に際し、共済金を給付する等、組合員の共済を図る事業等を目的とする消費生活協同組合である。

その余の被告ら(以下、併せて「被告保険会社ら」という。)は、火災等の保険事業等を目的とする株式会社もしくは相互会社である。

(3) 被告全労済及び同市民生協の火災共済事業は、営業的商行為(商法五〇二条九号)であり、同被告らは、いずれも業として右事業を行う商人である。

(二) 本件各共済契約及び本件各保険契約の締結

(1) 原告らは、それぞれ本件各別表の「被告名」欄記載の各被告との間で、同表記載の内容の火災共済契約及び火災保険契約を締結し、その共済掛金を支払った(以下、原告A《以下「原告A」という。》と被告全労済との間の共済契約を「全労済共済契約」といい、原告Dと被告市民生協との間の共済契約を「市民生協共済契約」といい、その余の原告ら及び被告らとの間の保険契約を、個別には、同表「原告番号」欄に従って「保険契約1」のようにいい《ただし、同一原告が複数の保険契約に加入しているときは、「保険契約1の①、同1の②」のようにいう。》、併せて「本件各保険契約」という。)。

(2) 原告西洋建物の被保険者性ないし原告適格について

被告同和火災海上保険株式会社(以下「被告同和火災」という。)の代理店は、Iに対し、建物9について原告西洋建物名義で契約することを勧めて保険契約9を締結させたものである。したがって、同被告は、信義則上、同原告の建物9についての被保険利益を否定できない。仮に、同原告に被保険利益がないとしても、保険契約9はIの委任に基づく他人のためにする契約として有効であり、同原告とIの関係に照らして、任意的訴訟担当として同原告は原告適格を有する。

(三) 共済・保険事故及び損害の発生

(1) 建物2及び家財2を除く本件各目的物は、一月一七日午前八時ころ、神戸市a区b町d丁目e番f号所在の新聞販売店xの店舗(以下「出火元建物」という。)から出火した火災(以下「本件火災」という。)の延焼によって全部焼失し、原告らは、それぞれ本件各別表の各原告の「請求金額」欄記載相当の損害を被った。

(2) 建物2及び家財2は、一月一七日午後八時ころ、火災によって全部焼失し、原告Bは、別表二の「請求金額」欄記載相当の損害を被った。

(四) 損害発生の通知

原告らは、被告らに対し、原告Dは遅くとも二月末日までに、その余の原告らは遅くとも三月二二日までに、本件火災による損害の発生を通知した。

(五) 被告らの共済金及び保険金支払義務の発生

被告らは、原告らに対し、右通知の日の翌日から三〇日後もしくは相当期間経過後までに、それぞれ本件各別表の「請求金額」欄記載の各共済金及び保険金の支払義務を負うところ、右支払期限は、原告Dにつき三月末日、その余の原告らにつき四月二二日である。

2  損害賠償請求(予備的)

(一) 被告らの説明義務・情報提供義務

現在社会における契約内容の複雑化や専門化に伴い、事業者は、消費者に対して、その情報量において圧倒的に優越しており、事業者による情報提供なくして消費者がその意図する契約目的を達することは事実上困難である。そのため、保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)一六条一項一号(なお、募取法は平成八年四月一日に廃止され、同日施行された保険業法三〇〇条一項に同趣旨の規定が設けられている。)においても、保険会社の情報提供義務を明示しているのである。特に、保険商品は、その内容の理解が困難である上、約款が使用される契約取引であるから、約款作成者たる事業者と消費者との間の当該約款条項に関する情報量の格差は明らかである。

そして、本件各保険契約の約款には、保険契約締結の意思決定について重大な影響を及ぼす地震免責条項が定められているのであるから、被告らは、保険契約を締結しようとする者に実質的な自己決定権を確保させるため、当該地震免責条項が適用される具体的な場合やその可能性について正確に説明すべき義務を負う。

(二) 右義務の不履行

被告らは、原告らに対し、地震免責条項についての説明を怠ったか、もしくは不十分な説明しかせず、その結果として、火災ないし地震保険契約を締結すべきか否かの判断に重要な影響を与える事実について情報を与えなかった。したがって、被告らは、不法行為又は債務不履行責任(契約締結上の過失)に基づき、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(三) 損害額

(1) 火災保険金相当額

原告らは、被告らの説明義務の不履行により、地震免責条項を認識できなかったか、少なくとも地震動と直接関係のない火災について地震免責条項の適用があるとは予想できず、本件火災による損害につき、火災保険金が支払われると信頼した。したがって、被告らは、原告らに対し、火災保険金相当額の損害賠償義務を負う。

(2) 地震保険金相当額

原告らは、被告らの説明義務の不履行により、地震保険に加入する機会を奪われ、地震保険によって得べかりし利益を失った。したがって、被告らは、原告らに対し、地震保険に加入していたならば得られたであろう地震保険金額から地震保険料額を控除した金額相当の損害賠償義務を負う。

3  よって、原告らは、被告らに対し、主位的には、原告Aについては、全労済共済契約に基づく火災共済金として、原告Dについては、市民生協共済契約に基づく火災共済金及び本件各保険契約に基づく火災保険金の一部として、その余の原告らについては、本件各保険契約に基づく火災保険金として、予備的には、不法行為又は債務不履行責任(契約締結上の過失)に基づく損害賠償として、それぞれ本件各別表の各原告の「請求金額」欄記載の各金員及び右各金員に対する弁済期後あるいは不法行為後の遅延損害金として、原告Dについては平成七年四月一日から、その余の原告らについては平成七年四月二三日から各支払済みまでいずれも商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告全労済)

1 請求原因1(一)(1)・(2)の各事実は認める。同(一)(3)の事実は否認する。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告日動火災海上保険株式会社《以下「被告日動火災」という。》)

1 請求原因1(一)(1)中、原告Dについての事実は認める。原告Bについての事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)中、建物2が三階建てであることは否認する。その余は認める。

3 同1(三)(2)中、損害額は争う。なお、建物2及び家財2の焼失は本件火災の延焼によるものである。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。なお、被告日動火災は、原告Dに対し、地震火災費用保険金として四〇万円を支払った。

(被告興亜火災海上保険株式会社《以下「被告興亜火災」という。》)

1 請求原因1(一)(1)・(2)の各事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告第一火災海上保険相互会社《以下「被告第一火災」という。》)

1 請求原因1(一)(1)の事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告三井海上火災保険株式会社《以下「被告三井海上」という。》)

1 請求原因1(一)(1)中、原告Kが、建物5の一部を所有していたことは認める。その余の事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告東京海上火災保険株式会社《以下「被告東京海上」という。》)

1 請求原因1(一)(1)の事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告同和火災)

1 請求原因1(一)(1)中、建物9がIの所有であることは認める。その余の事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)中、原告Mの「保険の目的」欄記載の事実は否認する。その余の事実は認める。同(二)(2)の事実は否認し、主張は争う。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告大東京火災海上保険株式会社《以下「被告大東京火災」という。》)

1 請求原因1(一)(1)の事実は不知。同(一)(2)の事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。なお、被告大東京火災は、二月一六日、原告Mに対し、地震火災費用保険金として七五万円を支払った。

(被告安田火災海上保険株式会社《以下「被告安田火災」という。》)

1 請求原因1(一)(1)・(2)の各事実は認める。

2 同1(二)(1)中、「保険期間」欄記載の事実は否認する。その余の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。

(被告住友海上火災保険株式会社《以下「被告住友海上」という。》)

1 請求原因1(一)(1)・(2)の各事実は認める。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。なお、被告住友海上は、原告Dに対し、地震火災費用保険金として五〇万円を支払った。

(被告市民生協)

1 請求原因1(一)(1)・(2)の各事実は認める。同(一)(3)の事実は否認する。

2 同1(二)(1)の事実は認める。

3 同1(三)(1)中、損害額は争う。その余の事実は認める。

4 同1(四)の事実は認める。

5 同1(五)の主張は争う。なお、被告市民生協は、原告Dに対し、震災特別見舞金として四一万円を支払った。

(被告ら)

請求原因2(一)ないし(三)の主張はいずれも争う。

三  被告らの主張

1  本件各目的物に生じた損害と本件火災との相当因果関係について

(被告三井海上)

原告K所有の建物5は、本件地震により、一階部分が倒壊し、二階部分はほぼ地面の高さまで落下して全壊状態であった。仮に、一階部分が倒壊したとまでいえないとしても、右建物は、北側鉄柱の溶接部が破断した上、南側鉄柱のアンカーボルトが伸びて北に傾き、鉄柱が建物の自重を支持できない状態となっていたから、既に全損状態であった。

(被告市民生協)

原告D所有の建物10のア・イが所在する神戸市a区b町は、震度七の地域に属しており、木造家屋の倒壊率は三割以上であった。したがって、建物10及び家財10の各ア・イは、本件地震により、少なくとも三割程度の価値を喪失しており、本件火災当時の残存価値は七割以下であった。

2  遅延損害金の割合について

(被告市民生協)

被告市民生協は、消費生活協同組合法(以下「生協法」という。)に基づき設立された共同組合であり、神戸市域という限定された地域内における組合員の生活の文化的経済的改善向上を図ることを目的とするものであって、営利を目的とするものではなく、商法上の商人ではない。また、被告市民生協の火災共済事業は、社会的経済的地位を共通にする組合員が、相互に掛金を拠出して、火災による損害を生じた組合員に対し、その資金から金銭等の給付を行うという共済契約であるから、契約の一方当事者が、偶然の事故により生じる損害を填補することを約し、他の当事者がこれに報酬を与えることを約するという商法上の保険ではない。また、被告市民生協は、営利を目的として火災共済事業を行っているものではないから、営業的商行為ともなり得ない。

仮に、被告市民生協の火災共済事業に商法の保険の規定が準用されるとしても、市民生協共済契約は、保険者と保険契約者の団体が一致し、その共同の計算において相互に保険しあうという性格のものであるから、営利保険ではなく、相互保険に準ずるものである。そして、相互保険は、商行為ではなく、遅延損害金の利率は、民法所定のそれによるから、市民生協共済契約についても同様に解されるべきである。

したがって、いずれにしても、被告市民生協の共済金支払債務に関する遅延損害金の割合については、商法五一四条の適用はなく、民法所定の年五分の割合によるべきである。

3  説明義務違反について

(被告市民生協を除く被告ら)

(一) 説明義務の不存在について

原告らは、説明義務の発生根拠として、①募取法の規定、②信義則や自己決定権、③事業者の社会的責任、④約款作成者の責任を挙げる。しかし、①募取法の規定は取締法規にすぎないし、②信義則や自己決定権は、約款取引が、約款内容の合理性を確保した上で、迅速かつ大量の取引を可能にする附合契約であることと相容れず、③事業者の社会的責任は、道義的責任にすぎない。また、④約款作成者に責任が認められるとしても、これは、約款の内容を説明しないまま、危険な取引の勧誘をしたことに基づくものであるところ、火災保険は危険な取引ではないし、被告らが積極的に勧誘したものでもない。

(二) 損害額について

(1) 火災保険金相当額について

被告らの説明によって原告らが採り得る手段は、火災保険に加入しないか、もしくは地震免責条項の存在を承知して火災保険に加入するかのいずれかであり、いずれにしても地震免責条項のない火災保険に加入できたわけではない。したがって、火災保険金相当額と説明義務の不履行との間には相当因果関係がない。

(2) 地震保険金相当額について

本件地震発生以前の地震保険加入率が低かったことからすると、説明義務の不履行がなかったならば、原告らが地震保険に加入した蓋然性があるとはいえない。したがって、地震保険金相当額と説明義務の不履行との間には相当因果関係がない。

(被告市民生協)

約款理論によれば、約款の内容の知、不知にかかわらず、契約者は約款に拘束されるから、被告らに説明義務があるとはいえない。

仮に、契約を締結するかどうかの判断に影響を与える事実について説明義務が認められるとしても、地震免責条項は、その存在を十分予測しえたものである上、内容の合理性も担保されているから、右説明義務の対象にならない。

四  被告らの主張に対する原告らの反論

1  本件各目的物に生じた損害と本件火災との相当因果関係について

(原告K)

建物5は、一階は階段と駐車場だけであり、本体は二・三階部分であった。右建物は、本件地震により、一階北側鉄柱一本の溶接部が外れて北に傾いたが、三階屋上部分で約二メートルずれただけであり、本体部分に損傷はなく、その内部にあった家財も特に損傷はなかった。したがって、右建物は、本体をレッカーで吊り上げて、鉄柱を溶接することにより補修が可能であり、その費用は建築費の一〇分の一以下である。

(その余の原告ら)

その余の原告らの本件各目的物は、本件地震により、食器等の消耗品類が破損したり、一部の家財が倒れた程度であり、特に被害を受けなかった。

2  遅延損害金の割合について

被告市民生協の行う火災共済事業は、組合員相互のためであることから募集経費がほとんど不要であり、その分掛金が安くなっていること、相互の連帯感が強いためリスクも比較的安定しており、剰余金が出れば相応の割戻しが行われること、共済金額の上限が定められていることなどの点に共済の特色を有しているにすぎず、全国共済生活協同組合連合会に再共済して全国的規模に及び、損害保険における異常危険積立金制度(保険業法一一六条)と同じ趣旨で責任準備金の積立てがされているなど、損害保険制度と同一の保険原理で運営されているのであるから、実質的には火災保険と同一である。これを「共済」と称しているのは、保険業法において「株式会社又は相互会社」でなければ保険事業を行うことができないとされている(保険業法六条、七条)ためにすぎない。

五  被告らの抗弁ー地震免責

1  被告らの地震免責条項

(被告市民生協)

被告市民生協の火災共済事業規約(以下「市民生協規約」という。)二〇条一項五号は、「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火災による損害」に対しては、共済金を支払わないと定めている(以下「市民生協免責条項」という。)。

(被告全労済)

被告全労済の風水害等給付金付火災共済事業規約(以下「全労済規約」という。)五四条一項(5)は、「地震により生じ、または拡大した火災による損害」に対しては、共済金を支払わないと定めている(以下「全労済免責条項」という。)。

(被告保険会社ら)

本件各保険契約の各保険約款には、「地震によって生じた損害(地震によって発生した火災が延焼または拡大して生じた損害、および発生原因のいかんを問わず火災が地震によって延焼または拡大して生じた損害を含みます。)」に対しては、保険金を支払わないと定めている(以下「保険会社ら免責条項」という。)。

2  地震免責条項の趣旨

(被告市民生協)

被告市民生協の火災共済事業においては、通常の火災による損害を前提に、統計学的確率論に基礎をおく大数の法則に従って損害発生割合を算出して掛金率を定めているところ、地震や噴火、戦争などを原因とする火災による損害は、地震発生率の予測が困難であり、かついったん発生すれば膨大な損害が発生する可能性があって大数の法則に則らないことから、収支均衡を保つため、これらによる損害を共済事業の対象から除外しているのである。そのため、被告市民生協は、掛金額の算出に当たっても、地震等による危険を除外して簡便な方法で行っている上、営利を目的としていないことから、組合員に対し剰余金の割戻しを行っており、異常危険準備金を考慮しても、共済掛金収入により地震等による危険に対応できる制度にはなっていない。このことは、本件地震によって加入者に発生した火災事故の火災共済金額の推計が合計一二八億円にのぼる一方、被告市民生協の平成七年度の共済掛金収入が約三億五千万円であることからして明らかである。

また、被告市民生協は、一八の共済協同組合により全国共済生活協同組合連合会を組織し、再共済制度を設けて危険の分散を図っているが、各共済協同組合はいずれも弱小であり、地震等による危険に対応できる制度ではない。

(被告全労済及び被告保険会社ら)

被告全労済の火災共済事業及び被告保険会社らの損害保険制度は、統計学的確率論に基礎をおく大数の法則に従い、収支相当の原則に則って行われるものであるところ、地震発生率の予測は困難であり、かつ、一旦発生すれば膨大な損害が発生する可能性があって大数の法則に則らない上、地震は一定地域・一定期間に集中する傾向があって危険の平均化も困難であることから収支相当の原則に適合しないため、地震による損害を免責の対象としているのである。したがって、地震免責条項は、合理性を有するものであって有効であり、このことは、火災保険と独立して設けられた地震保険制度の目的や内容からみても明らかである。

3  地震免責条項の拘束力

(被告市民生協)

市民生協共済契約は、市民生協規約に基づいて締結されており、共済契約当事者であって、被告市民生協の組合員である原告Dに、市民生協規約及びそこに規定された市民生協免責条項の拘束力が及ぶのは当然である。

また、被告市民生協は、火災共済契約を締結する組合員に、契約の都度(すべて一年契約)、「ご契約にあたって」と題する書面を交付しているところ、右書面には、共済金の支払ができない場合として、「地震によって生じた損害」と明記されており、原告Dは、地震によって生じた火災による損害が市民生協共済契約の対象とならないことを知り得たはずである。

(被告全労済)

約款・規約による契約は、内容の合理性が担保されていれば、細部に至るまで当事者の意思の合致がなくても拘束力が認められるところ、全労済規約は、被告全労済の総会決議によって設定・変更され、厚生大臣の認可を受けて効力が発生するものであるから、規約の合理性は十分に担保されている。また、被告全労済は、共済申込書などに全労済免責条項を記載してこれを契約者に開示している。

(被告保険会社ら)

(一) 保険は、多数の保険加入者の資金を備蓄して共通の危険に備える制度であるから、迅速かつ大量に保険契約を締結する必要がある。また、保険料や保険金は、保険加入者に平等かつ公平な危険の分散を図ることを目的として、高度の数理的計算に基づき算出されている。そのため、保険契約は、主務官庁の監督下に作成された標準的約款(普通保険約款)に附合して締結することとされているのである。したがって、保険約款は、保険加入者の知・不知や主観的意思に関わりなく、当事者が約款によらない旨の意思を表示しない限り、保険加入者を拘束するのである。

(二) また、火災保険契約は、一年毎に更新される例が多く、その度に保険約款が契約者に送付されるので、右約款は社会に十分流布されている上、地震免責条項は、火災保険発売以来一〇〇年以上にわたって存在しており、既に公知の事実といい得るものである。

(三) 被告東京海上、同住友海上及び同大東京火災は、いずれもその担当者において、本件各保険契約締結時及び更新時に、それぞれの原告に対し、地震免責条項を含めて契約内容を説明している。

4  地震免責条項の解釈

(被告市民生協)

(一) 市民生協免責条項の「火災」が延焼火災を含むことについて

規約文言の解釈に当たっては、同一の語句は同一の意義を有するものとして解釈すべきであり、市民生協規約は、「火災」と「延焼」を特に区別して規定していないことからすれば、右「火災」は、市民生協規約中の他の規定で用いられている「火災」と同義であり、市民生協規約二条の二(1)号で定義されているとおり、「人の意思に反し又は放火により発生し、人の意思に反して拡大する消火の必要のある燃焼現象であって、これを消火するために、消火施設又はこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とする状態」をいうものと解すべきである。これによれば、市民生協免責条項にいう「火災」には、火元火災に限らず延焼火災も含まれるものというべきであって、これは火災についての一般的概念にも合致する。したがって、延焼火災であっても、地震を直接又は間接の原因としている限り、市民生協免責条項の適用を受けることになる。

(二) 市民生協免責条項の「損害」の範囲

被告市民生協の事業目的及び市民生協免責条項の前記趣旨、並びに、地震火災は、複雑・多様な要因により発生・拡大することからすると、「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火災による損害」とは、地震動による出火の場合のみならず、地震が直接又は間接に影響を与えたことによって発生した火災及び発生原因の如何を問わず地震の直接又は間接の影響により拡大した火災による損害を含むものと解すべきである。すなわち、地震の際には、地震の直接の影響による出火、例えば、燃焼中のストーブが転倒して出火するような場合のみではなく、送電出火、保険金詐取のための放火、あるいは漏洩ガスへの着火による出火など、通常の場合とは異なる出火原因が考えられる上、建物倒壊等による建物の耐火性の減少・喪失、生活の混乱による初期消火活動の欠如や通報の遅延、断水による消防施設の使用不能、交通障害による消火活動阻害、同時多発火災の発生や人命救助の優先による消防力の絶対的不足等の消火活動阻害要因により、火災が異常に拡大する可能性が高い。被告市民生協は、このような地震の危険性に鑑み、市民生協免責条項を定めているのであるから、市民生協免責条項にいう「損害」は、右のように広く解すべきである。

なお、市民生協免責条項は、被告保険会社らの旧火災保険約款(以下「旧約款」という。)とは、その規定内容を異にしているから、旧約款の解釈や被告保険会社らの約款改定経緯は、市民生協免責条項の解釈の根拠とはならない。

(被告全労済)

(一) 全労済免責条項の「火災」が延焼火災を含むことについて

被告全労済の風水害等給付金付火災共済事業細則(以下「全労済細則」という。)二条(1)は、「火災とは、人の意図に反してもしくは放火により発生し、または人の意図に反して拡大する、消火の必要のある燃焼現象であり、これを消火するためには、消火施設またはこれと同程度の効果あるものの利用を必要とする状態をいう。」と定めており、これによれば、全労済免責条項にいう「火災」には、火元火災に限らず延焼火災も含まれるものというべきである。

(二) 全労済免責条項の「損害」の範囲

全労済免責条項は、「地震により生じた火災」と「地震により拡大した火災」を対象とするものであり、「により」との文言は相当因果関係があることを示しているのである。したがって、前者は、地震と相当因果関係のある火災、すなわち、火元火災及びその延焼火災を意味し、後者は、出火原因の如何を問わず地震と相当因果関係のある事由によって拡大した火災を意味するものである。

全労済免責条項の改定前の文言は、「直接又は間接を問わず、地震により生じた損害」と定めていたところ、現文言は、平成三年に厚生大臣の認可を得て改定されたものである。右改定を行ったのは、損害保険業界が昭和五〇年四月一日から地震免責条項の改定を行ったことを勘案し、発生原因の如何を問わず地震によって延焼又は拡大した火災が免責対象であることを明確化したものである。

(被告保険会社ら)

(一) 保険会社免責条項は、地震によって発生した火災による損害(以下「第一類型」ともいう。)、地震によって発生した火災が延焼又は拡大して生じた損害(以下「第二類型」ともいう。)及び発生原因の如何を問わず火災が地震によって延焼又は拡大して生じた損害(以下「第三類型」ともいう。)を免責対象とするものである。

(二) 第三類型の適用範囲について

第三類型には、火元火災の出火時間を地震前に限定する文言は一切ない。また、第三類型は、地震によって消防力が低下する等の危険性が発現することを考慮して規定されたものであるから、出火時間を地震前後で区別する合理的理由はない。なお、社団法人日本損害保険協会(以下「損保協会」という。)が、本件地震後、全国紙に掲載した地震免責条項の解釈は、地震免責条項の適用場面の一部を例示したものにすぎず、第三類型の適用場面を「地震前に発生していた火災」に限定する趣旨のものではない。したがって、右解釈から、第三類型の適用場面が多義的で不明確であるとはいえない。また、原告らは、右解釈を信頼して被告保険会社らと本件各保険契約を締結したわけではなく、被告保険会社らの主張が信義則及び禁反言則違反の問題を生じる余地はない。

5  本件火災と本件地震との相当因果関係

(一) 本件火災が直接あるいは間接に本件地震に起因して発生したことについて

(被告ら)

(1) 出火原因

本件各建物は、震度七の激震地区に所在しており、出火元建物は、その倒壊を免れたものの、建物が歪む等して屋内配線に半断線状態となる等の損傷を生じていた。そこに、一月一七日午前八時前ころ、本件地震直後に停電した電気が復旧し、その後五分ないし一〇分経過したころ、出火元建物二階の軒下から白っぽい煙が上がったのである。したがって、本件火災は、本件地震により損傷していた屋内配線に通電されたことにより、漏電、短絡等が生じて発生したものである。

(2) 送電再開時刻

関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)は、本件火災現場付近に対する送電再開時刻につき、一月一七日午前八時二一分と回答している。しかし、本件火災現場付近においては、同日午前八時ころ、一時的に電気が復旧していたことは、付近住民の供述から明らかであり、客観的にも送電は可能であった。すなわち、本件火災現場付近への配電用変電所はw変電所であり、その上位変電所はz変電所であるが、w変電所の配電設備には支障がなく、z変電所から送電されれば自動的に各家庭に送電される状態であったところ、z変電所は、一月一七日午前七時五四分には充電されたのである。関西電力の右回答は、安定的・確定的な送電再開時刻を示しているにすぎないものである。

また、関西電力の回答によれば、送電前に出火したこととなる火災についても、出火原因が電気関係と推定されている火災が多数存在している。

(二) 出火原因の立証責任について

(被告市民生協)

本件火災は、巨大地震である本件地震により全壊状態となった建物から、本件地震の二時間後に発生している。このような場合、出火原因について、本件地震以外を理由とする特段の事情がない限り、本件火災は、本件地震によるものと事実上推定されるべきである。そうでなければ、大地震の場合、社会が混乱して、出火原因を究明することが不可能であるから、結果的に地震免責条項が有名無実となり、火災共済事業自体が成り立たないことになる。

本件火災の場合、出火元建物は木造であり、その損壊に伴って屋内配線に何らかの異常が生じたと推測され、それが、通電により短絡して発熱し、木造建物の可燃部分に着火したと推測されるのである。そして、出火場所には失火となる火源は存在しなかったし、周辺に住民が多数いたから、放火の可能性も考えられない。そうすると、本件火災が本件地震によるものとの推定を覆す事情はないというべきである。

(三) 本件火災が本件地震により延焼拡大したことについて

(被告ら)

仮に、本件火災が、本件地震に起因して発生したものといえないとしても、以下のとおり、本件地震の影響により延焼拡大したことは明らかである。

(1) 同時多発火災による消防車・消防隊員の不足

一月一七日午前八時ころまでに、神戸市a消防署管内において一四件の火災が発生し、本件火災後も火災が続発していた上、倒壊家屋の下敷きとなった住民の救助活動等のため、一箇所の火災に対処しうる消防車・消防隊員が不足していた。非常招集していた消防隊員四名が小型の可搬式動力ポンプをはしご車に積載して出動したものの、出動までに約一〇分の時間を要した。

(2) 水源及び消防能力の不足

本件火災現場付近の消火栓は、地震による断水のため使用不能であった。そのため、消防隊員は、b町g丁目の一五トン防火水槽に部署してホース延長を行ったが、小型ポンプでは、一線放水しかできなかった上、右防火水槽の水は約三〇分でなくなったので、消火の効果はなかった。午前九時ころ、ポンプ車一台が応援に来たものの、一線放水しかできなかった上、本件火災現場の東方一五〇メートルの距離にあるr小学校から採水していたため、ホースの圧力が上がらず、ほとんど放水できなかった。午前一一時ころ、消防団が小型動力ポンプを甲通d丁目の八〇トン防火水槽に部署して一線放水で応援したが、激しくなっていた火勢を押さえることはできなかった。なお、右防火水槽の水は、午後四時ころにはなくなった。

(被告市民生協)

(1) 建物倒壊による易可燃性

本件地震により、a区においては、一万一六九三戸の建物が全壊し、三五五九戸の建物が半壊した。また、a区東部においては、木造住宅の六四パーセントが大破していた。そのため、a区内は、建物が瓦礫となり、延焼が拡大する要因となった。

(2) 火災覚知の遅延

本件地震により、消防本部と各消防署の連絡が途絶え、一一九番通報しても、各消防署に火災出動指令は出なかった。そのため、本件火災の通報は、出火元建物の住人Eがバイクで消防署に通報しており、一一九番通報と比較すると、消防当局の火災覚知が遅延したのは明らかである。

(3) 消火活動着手の遅延

消防隊員らは、消火栓が使用不能であったため、防火水槽で対応したが、火災現場まで距離があり、一本二〇メートルのホースを一〇本以上延長しなければならず、延長作業自体に時間を要した。はしご車が本件火災現場の北西約三〇〇メートルの五〇番防火水槽に到着したころには、既に一、二軒に延焼しており、右防火水槽からホース延長を行い、出火元建物付近に到着したころには、数軒に延焼してしまっていた。

六  抗弁に対する原告らの認否及び主張

(認否)

抗弁1の事実は認める。同2の事実は否認する。同3及び4の主張は争う。同5の本件地震と本件火災との間に相当因果関係があることは否認する。

(主張)

1 地震免責条項の拘束力について

(一) 約款・規約に規定された地震免責条項は、保険給付の範囲を画する重要条項であるから、これに拘束力が認められるためには、保険申込書や契約のしおりへの記載(抽象的認識可能性)のみでは足りず、契約締結前に、その適用範囲等について口頭で具体的に説明して開示すること(具体的認識可能性)が必要である。しかるに、原告らは、本件各共済契約及び本件各保険契約締結にあたり、右約款・規約やそこに規定された地震免責条項について説明されたことはないから、地震免責条項は契約内容となっておらず、原告らに対して拘束力を持ち得ないものである。

また、特に地震免責条項の第三類型については、不意打ち条項禁止の考え方からも、その拘束力が否定されるべきである。

(二) 市民生協規約三条には、「この組合は、共済契約を締結するときは、共済契約の申込みをした者に対し、第二章から第五章までに規定する事項のうち、共済契約の内容となるべきものを、あらかじめ正確に提示しなければならない。」と規定されていることからすれば、右規約は内部的なものであり、申込者を直接拘束するものでないことは明らかである。また、規約とは別に作成されている「契約のしおり」の記載事項が契約内容となり得るには、被告市民生協において、契約締結前に、申込者に対して「契約のしおり」を提示し、地震免責条項等の重要事項を口頭で説明して、契約者がその内容を了知した上、承諾したことが必要である。

2 地震免責条項の解釈について

(一) 「地震」の意味について

地震免責条項が、地震による損害の巨大性及びその発生確率の予測困難性から保険会社等の経営基盤を保護するという存在意義を有するものであり、商法上、被保険者側に帰責事由がない場合には、戦争や変乱による場合以外は火災損害を填補することとされていることからすると、地震免責条項にいう「地震」とは、地震と同時に広範囲にわたって多発的に火災が生じ、被害額自体が保険会社等の基礎を掘り崩し、企業の存立を危うくするような地震を指すと解すべきである。

(二) 「地震によって」の意味について

約款の解釈に当たっては、一般人の合理的意思によるべきことは当然であり、また、約款は、企業者が経済的地位の優位を背景として一方的に作成するものであり、必然的に作成者有利となるものであるから、複数の解釈が可能な場合には、消費者に有利な解釈を採用すべきであって、作成者に有利な類推・拡張解釈はすべきでない(作成者不利の原則)。そうすると、「地震によって」につき、「自然的現象による地盤の揺れそのもの」あるいは「地盤の揺れ及びその後の社会生活上の支障」という複数の解釈が可能であるとすれば、作成者不利の原則により、「自然的現象による地盤の揺れそのもの」を指すと解すべきであり、これは、一般人の通常の意思に合致する。したがって、人為的要素が介在した火災は、地震免責条項の対象とならないと解すべきであり、第一類型及び第二類型にいう「地震によって発生した火災」とは、地盤の揺れによってストーブが倒れたり、炊事中の火が燃え広がって火災が発生したような場合をいい、漏洩ガスに煙草の火が着火したとか、通電再開により電線がショートしたといった人為的要素が介在する火災は含まれない。

(三) 第三類型の適用範囲について

右の解釈原則によれば、第三類型は、地震の前に火災の発生していた建物が、地盤の揺れによって倒壊した結果、火災が周囲に燃え広がったような場合をいうと解すべきである。右解釈は、損保協会が、本件地震後、全国紙に掲載した地震免責条項の解釈と一致しているとともに、その文理にも合致する。被告保険会社らは、損保協会の構成員であるから、信義則上も右解釈に拘束されると解すべきである上、作成者不利の原則上も、損保協会の解釈によるべきである。

(四) 市民生協免責条項及び全労済免責条項の各適用範囲について

保険会社ら免責条項は、従来「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火災」という文言であったのを、新潟地震の際に右条項の解釈が争われたことを契機として、昭和五〇年に括弧書部分を改定して、免責範囲を拡張したものである。

しかるに、市民生協免責条項及び全労済免責条項は、右のような火災保険約款の改定にかかわらず、火災保険の旧約款と同様か、あるいはそれ以上に単純な文言のままである。そうすると、前記のとおり、約款の解釈は一般人の合理的意思と作成者不利の原則に従って解釈すべきであるから、右被告らの各免責条項は、保険会社免責条項の括弧書部分の類型を除いたものと解すべきである。したがって、市民生協免責条項は、第一類型のみを対象とするものであり、全労済免責条項は、第一類型及び第二類型を対象とするものの、「原因が直接であると間接であるとを問わず」との文言がないことからすると、地震によって直接出火又は拡大した火災による損害のみが免責の対象になるというべきである。

3 本件火災と本件地震との相当因果関係について

(一) 本件地震と火元火災との相当因果関係について

(1) 出火元建物の状況

本件火災の出火場所とみられる出火元建物二階の六畳の部屋は、タンスも倒れておらず、特に異常はなかったから、屋内配線が断線あるいは半断線状態となっていたとはいえない。他方、xでは、職業上、一般よりも早くから生活・業務活動が開始されていたのであり、様々な火災発生原因が推測されるのである。

(2) 送電再開時刻について

関西電力の回答によれば、本件火災現場付近に送電が再開されたのは、一月一七日午前八時二一分であり、右回答を疑う理由はない。付近住民の供述によれば、通電後に本件火災を確認したというものが多いが、火災の確認時刻が通電後であるからといって、火災の出火時刻も通電後であることにはならない。

(3) 送電再開の技術的可能性について

変電所が送電を開始するには、充電開始から相当の時間を要するのであり、z変電所が送電可能となったのは、一月一七日午前七時五四分ではなく、午前八時〇二分である。しかし、仮に、右時刻にw変電所に送電したとしても、w変電所で「受電遮断器を投入」する作業をしなければ、同変電所から各家庭に送電されることはないところ、J制御所が、右作業をした時刻が午前八時二一分なのである。しかも、w変電所から各家庭へ配電するには、その間にある電柱に設置されているすべてのトランスと自動開閉器が損傷しなかったか、もしくは補修される必要があるのである。

(4) 出火可能性について

仮に、一月一七日午前八時二一分以前に一時的に通電したことがあったとしても、短時間の漏電により木材の引火点や発火点に達することは困難であるし、短絡したとしても、通常瞬時にブレーカーが遮断されるから、右引火点や発火点に達することは困難である。

(二) 本件火災が延焼拡大した原因について

以下のとおり、本件火災の消火活動は、通常の場合に比較して特に劣っていなかったものの、神戸市の消防体制の不十分や本件火災現場の地域的特性、当日の気象条件等の人為的・自然的要因の影響により延焼拡大したものであって、地震による影響は、ほとんどなかったといえる。したがって、本件地震と本件火災の延焼拡大との間に相当因果関係はない。仮に、本件火災の延焼拡大につき、本件地震による影響を否定できないとしても、右のとおり、本件地震以外の要因が本件地震と競合して本件火災を延焼拡大させたのであるから、それぞれの要因の寄与度に応じた相当因果関係が認定されるべきである。

(1) 神戸市の防災対策不足

神戸市は、以前から、活断層が存在しており直下型大地震の発生する可能性のあることが指摘されていたにもかかわらず、予算を抑えるために想定震度を五として「地域防災計画」を策定した。そのため、地震発生後も、消火栓から消防用水を採水することが前提とされ、それに伴い、耐震防火水槽や消防ポンプ車等の整備は、全国的にみて極めて不十分であった。

(2) 神戸市の消防方針の不適切

本件地震後、近隣の西宮市では、「一火災現場一ポンプ」という基本方針を立て、消防団との連携を図る等の消防態勢が採られたが、神戸市では、火災発生件数や大規模火災への延焼危険性等を考慮することなく、「管轄区域の火災は各消防署で対応すること。」との基本方針を立てたため、組織的な消防態勢が確立されなかった。

(3) 本件火災現場における消火活動

① 水源が不足していなかったこと

消火栓は、全く使用できなかったわけではなく、消防団やその協力者は、複数の消火栓を使用して消火活動を行っていた。また、防火水槽九基が使用され、本件火災現場付近の防火水槽は、通常どおり使用できたし、r小学校のプールからも大量の水が採水できた。なお、r小学校の西南角には、耐震性の一〇〇トン防火水槽も設置されていた。

② 消防能力が不足していなかったこと

a消防署の通常の消防体制は、ポンプ車五台(普通車一台・小型車四台)、化学車、はしご車、救助工作車各一台の合計八台であり、仮に、はしご車に小型動力ポンプを積載しても、最大で六台が放水できるに止まっていた。これに対して、本件火災の際は、a消防署からは、ポンプ車、小型動力ポンプを積載したはしご車及び消防団の小型動力ポンプ積載車各一台の消防車両と一三名の消防隊員が出動するに止まったが、その他に、少なくとも一〇数名の地元消防団員が朝から消火活動に加わっていたし、その後、他区や他市からの応援車両や部隊も加わっており、通常に劣らない消防態勢であった。

③ 消火活動が遅延していなかったこと

a消防署が本件火災を覚知する以前から、地元消防団員らが現場で消火活動にあたっており、消火活動は、通常時より遅延していなかった。

(4) 地域的特性

本件火災現場付近は、住宅密集地である上、道路が狭く、もともと消防車の進入が困難な環境にあった。しかも、出火元建物が築後五〇年以上の木造五軒長屋の一角であったことが延焼拡大の要因となった。

(5) 初期対処の不適切

本件火災の出火発見直後、出火元建物の住人であるE及び付近住民は、消火器による消火が不能となるまで消防署に通報せず、消防署による初期消火の機会を失わせた。また、Eや付近住民に、消防用ホースの所在、消火栓や防火水槽の使用方法が知らされておらず、初期消火ができなかった。

(6) 一月一七日の気象条件

風下延焼速度は、風速が毎秒三ないし四メートルになると急速に上昇するとされるが、一月一七日午後から、風向が西から北東に変化した上、風速が毎秒四・六メートルとなった。

(7) 鎮火処理の不適切

本件火災は、出火元建物から数軒延焼した段階で、ほぼ鎮火した状態となったことが二回ほどあった。しかし、消防隊員は適切な収束処理や指示を怠り、完全に鎮火する機会を逸した。

七  再抗弁ー地震免責条項の公序良俗違反

地震免責条項は、以下のとおり、その内容に合理性がなく、大企業が経済的優位を背景として一方的に設定する約款の条項としては、著しく正義に反しており、公序良俗違反により無効である。

1  存在理由の欠如

免責条項は、企業の責任の範囲を限定することによって、発展途上の企業の健全な保護・育成を図ることを目的とするものであるところ、現在の損害保険会社は、多額の資産を蓄積し、産業基盤の確立した企業体であるから、地震免責条項は、最早消費者を犠牲にするだけの時代遅れの規定である。

2  地震火災による損害が膨大でないこと

関東大震災以後、大地震の際に損害保険会社の存立の基礎を危うくするほどの大規模火災は起きておらず、保険の対象となるフェーン現象、台風等に起因する火災や風水害に起因する建物被害の方が右火災による被害よりも大規模な場合が多いのであり、被害が膨大であることは地震火災を免責する根拠とはならない。このことは、本件地震があったにもかかわらず、統計上は建物焼損棟数が激増していないことからも明らかである。

3  内容の漠然不明確性

被告保険会社らの地震免責条項は、規定自体が漠然不明確であって、いかなる範囲の火災がその対象となるかについて、客観的・画一的な解釈ができないから、保険会社の恣意的運用により免責範囲が不当に広く解される危険性がある。

八  再抗弁に対する被告らの認否

再抗弁事実はいずれも否認する。公序良俗違反の主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者並びに本件各共済契約及び本件各保険契約締結(請求原因1(一)・(二))について

1  請求原因1(一)(1)のうち、原告Aに関する部分は同原告・被告全労済間で、原告Jに関する部分は同原告・被告興亜火災間で、原告Lに関する部分は同原告・被告東京海上間で、原告Kが本件地震発生当時に建物5の一部を所有していたことは同原告・被告三井海上間で、原告Dに関する部分は同原告と被告日動火災・同住友海上及び同市民生協との間で、建物9が原告西洋建物の代表者Iの所有であることは同原告・被告同和火災間でそれぞれ争いがなく、同1(一)(2)の事実は当事者間で争いがない。また、同1(二)(1)のうち、建物2が三階建てであること、建物7の所在地及び構造、原告N・被告安田火災間の保険契約8の①の保険期間を除く事実は各当事者間に争いがない。

2  請求原因1(一)(1)のその余の事実について

右のうち、原告Bに関する部分は証拠(甲五、原告B本人)及び弁論の全趣旨により、原告Lに関する部分は証拠(甲九、原告L本人)及び弁論の全趣旨により、原告Cに関する部分は証拠(甲七、原告C本人)及び弁論の全趣旨により、原告Nに関する部分は証拠(甲一一、原告N本人)及び弁論の全趣旨により、原告Mに関する部分は証拠(甲一〇)及び弁論の全趣旨により、それぞれこれを認めることができ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

なお、右争いのない事実及び証拠(甲八の1・2、原告K本人)並びに弁論の全趣旨によれば、建物5は、三階建てで、そのうち一・二階部分は原告K名義、三階部分は同原告の息子名義となっているが、これは、平成四年五月に、それまで同原告が所有していた木造二階建建物を解体し、建築費用約五〇〇〇万円をすべて同原告が出捐して新築したものであることが認められる。そうすると、本件地震当時、建物5はすべて原告Kが所有していたものというべきである。

3  請求原因1(二)のその余の事実について

(一)  建物2の階数について

被告日動火災は、原告Bの建物2は三階建てではないと主張するので、検討するに、証拠(甲五、二七、乙B二《以下の認定に反する部分を除く。》、原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告Bは、昭和三六、七年ころ、神戸市a区b町d丁目e番h号に鉄骨造陸屋根三階建ての建物2を建築し、そのころ、右建物について、被告日動火災の代理店を通じて被告日動火災と住宅火災保険契約を締結したが、その折りに契約書には二階建てと誤記されたこと、その後右契約は一年毎に更新され、また、同被告の代理店がv保険事務所に代わったが、同事務所は、引継の際、建物2を見て三階建てであるのを確認していたが、従前の代理店から引き継いだ書類に二階建てと書いてあったので、更新契約書にはそのまま二階建てとしてきたことが認められる。

右認定事実によれば、建物2は、右契約締結当初から、鉄骨造陸屋根三階建てであり、三階建ての建物として保険契約が締結されたものと認めることができる。火災保険契約継続申込書(乙B二)には、建物2の階数として「2」と印字されているが、右にみたところに照らして誤記と認められ、右認定を左右するものではない。

(二)  建物7の所在及び構造について

被告同和火災は、建物7の所在地及び構造を争うので検討するに、証拠(甲一〇、三五、乙G七の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告Mは、昭和五六年三月二日、神戸市a区b町d丁目i番地j(住居表示は神戸市a区b町d丁目k番i号)に木造瓦葺二階建建物を新築し、同月一六日、右建物を保険の目的として、被告同和火災との間で、保険契約(保険契約7の①)を締結したこと、右保険契約の契約書には、目的建物の構造を木造瓦葺二階建て、所在を住居表示である「神戸市a区b町d丁目k番i号」と記載したこと、原告Mは、昭和六〇年ころ、右建物の屋根裏を改造して六畳ないし七畳の屋根裏部屋を造り、これを物置として利用していること、その前後で保険金額を変更していないことを認めることができる。

右認定事実によれば、建物7は、保険契約7の①の目的建物とその所在を異にするとはいえず、また、構造上、二階建てであることは契約時から異なっておらず、その内部に物置として屋根裏部屋を造ったにすぎないものである。したがって、保険契約7の①の目的は原告Mの主張するとおりであると認めることができる(なお、右屋根裏部屋は、物置として利用されているにすぎないものであり、右改造前後で保険金額に変更もないことからすると、右屋根裏部屋の存在が建物7の価値を格別増加させるものと認めることはできないから、原告Mの損害額の算出にあたり、右屋根裏部屋の存在を特に考慮する必要はないといえる。)。

(三)  原告N・被告安田火災間の保険契約8の①の保険期間について

証拠(乙I二の1ないし4、原告N本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告Nは、建物8につき、昭和五五年一二月四日に同日から昭和六〇年一二月四日までの五年間を保険期間として被告安田火災と火災保険契約を締結し、右期間満了後、五年間を保険期間として更新を二度行い、保険契約8の①における保険期間は平成二年一二月四日から平成七年一二月四日であったことを認めることができる。

(四)  原告西洋建物の被保険利益について

前記争いのない事実及び証拠(甲一二、原告西洋建物代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、建物9は、Iが平成四年に新築した木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建事務所・車庫であり、これをIが代表者を務める原告西洋建物が賃借する形で全体を同原告の店舗事務所として使用していたこと、Iは、平成四年四月に、以前の同僚で、当時保険サービス代理店をしていたPから勧誘されて建物9及び原告西洋建物所有の家財9について被告同和火災の店舗総合保険という火災保険に加入することにしたこと、その際、Iは、Pに対し、建物9はI個人所有であることを告げたが、Pから、契約は会社名義でした方が税務上有利だと勧められて原告西洋建物名義で保険契約9を締結したこと、被告同和火災は、本件地震後、原告西洋建物の保険金請求に対し、地震の場合は保険金は出せないが、保険金の五パーセントを見舞金として同原告に支払う旨回答し、同原告に一〇〇万円を送金したことを認めることができる。

右認定事実によれば、建物9はIの所有であるが、原告西洋建物はIから建物9を賃借する形でこれを店舗事務所として使用しているのであり、被告同和火災の代理人であるPは、建物9がI所有であることを知りつつ、会社名義で保険契約をすることを勧めて、これを締結させ、同被告は、見舞金という形ではあるが、原告西洋建物を被保険者として扱っているのである。そうすると、右当事者間では、原告西洋建物が被保険者としての利益を有することを合意した上、保険契約9を締結しているといえ、原告西洋建物とIの右関係に照らせば、かかる契約を許容しても特に不適切な事態が出来するともいえないから、同原告が被告同和火災に対して被保険者として保険金請求をすることは妨げられないというべきである。

二  本件各目的物に生じた損害と本件火災との相当因果関係(請求原因1(三))について

1請求原因1(三)(1)中、本件火災の発生は当事者間に争いがない。

2右争いのない事実及び証拠(甲一、四、五、六の1・2、七、八の1、九ないし一三、二五、二八、二九、三二の1・2、三三の1・2、三四、三六の1・2、三七の1・2、三九、検甲一の1ないし6、乙一、原告J、同B、同C、同N、同K、同L、同A及び同D各本人、同西洋建物代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  建物1は、昭和六三年一〇月ころ建築された木造スレート葺モルタル三階建てであり、本件地震により、倒壊することはなかった(甲四、三九、検甲一の1ないし3、原告A本人)。

(二)  建物2は、昭和三六、七年ころ建築された鉄骨造陸屋根三階建てであり、本件地震により、食器棚の中の食器が破損したり、三階にあった洋服箪笥一棹が倒れたりしたが、建物自体は倒壊することなく、ドアの開閉に支障を生じることもなかった(甲五、検甲一の5・6、原告B本人)。

(三)  家財3は、木造モルタル瓦二階建併用住宅の二階住居部分四戸のうち原告Jの借家である東側の一戸内にあったところ、右建物は、本件地震により、屋根瓦がずれて落ちるなどの被害を受けたが、倒壊することはなく、家財3のあった室内のアルミサッシ窓やガラス戸・ふすま等が開閉できなくなることもなかった。家財3には、和箪笥二棹、洋箪笥三棹、仏壇、電子レンジや餅つき器等の電気製品のほか、左利き用のエレキギター四本及びアンプ一台の楽器類が存在していたところ、本件地震により、箪笥、電気製品、水屋などが倒れ、食器類はほぼすべて壊れるなどの被害を受けた(甲六の1、原告J本人)。

(四)  家財4は、木造二階建併用住宅五戸一棟のうち原告Cの借家である一戸内にあり、同原告は、右借家の二階部分を住居とし、一階部分で理容室を経営していたところ、右建物は、本件地震により、屋根瓦がずれてその一部が落ちるなどの被害を受け、家財4は、店舗内の化粧品などが棚から落ちて散乱するなどの被害を受けた(甲七、原告C本人)。

(五)  建物5は、平成四年五月一四日に約五〇〇〇万円の費用をかけて建築された鉄骨造陸屋根三階建てであり、一階は、南側に事務室があったほかは駐車場であり、本件地震当時、コンプレッサーを積載したトラックが駐車しており、二・三階部分が原告K夫婦及び同原告の長男夫婦の住居としてそれぞれ利用されていた。建物5は、南北にそれぞれ三本の鉄柱を用いて通し柱とし、鉄柱の太さは、一・二階が二〇センチメートル、三階が一五センチメートルであり、各階の接合部は、ボルト接合の上、溶接されていたが、本件地震により、北東角の鉄柱の一・二階部分のボルト及び溶接が外れ、基礎部分から北側に約二〇度傾き、屋上部分が約二メートル北側に張り出した。そして、南側鉄柱の基礎のアンカーボルトが伸びて建物南側が浮き上がり、建物二階部分が一階に駐車していた前記トラックの天井に乗り掛かっていた。そのため、二・三階部分も北側に傾いていたが、その構造部分に大きな損傷はなく、原告K夫婦及び同原告の長男らは、建物東面の外側に設置されていた階段から右各階に出入りし、貴重品や身の回り品を取り出していた。本件火災後、建物5は、一階部分が崩壊し、二・三階部分がその上に被さるように座屈した(甲八の1、三三の1・2、三六の1・2、乙一、原告K本人)。

(六)  建物6は、昭和五七年一〇月五日に建築された木造モルタル塗瓦葺二階建専用住宅であり、本件地震により、瓦の一部が落ち、玄関の引き戸が外れて倒れ、二階の三面鏡が倒れるなどしたが、倒壊することはなかった(甲九、三四)。

(七)  建物7は、昭和五六年三月二日に建築された木造瓦葺二階建てであり、昭和六〇年ころ、屋根裏部屋が改築された。右建物は、本件地震により、一階の壁が約五〇センチメートル四方剥落したり、玄関の戸が開閉しにくくなったりし、箪笥が倒れるなどの被害を受けたが、建物は倒壊することはなかった(甲一〇、原告M本人)。

(八)  建物8は、昭和五六年一月一五日に建築された鉄筋コンクリート耐火造陸屋根三階建てであり、建築当初は、二・三階部分を同原告が所有し、一階部分を同原告の姉であるOが所有していたが、平成元年五月一五日、相続により、一階部分も原告Nの所有となった。建物8は、本件地震により、二階にあったショーケースや陳列棚が破損したり、ピアノや洋服箪笥が破損するなどの被害を受けたが、建物は倒壊することはなかった(甲一一、二八、二九、三二の1・2、原告N本人)。

(九)  建物9は、平成四年五月一日に建築された木造コンクリート造金属板二階建てであり、原告西洋建物の代表者であるIが所有していたが、同原告の店舗事務所として使用され、右建物内の什器備品類等の家財9は、同原告の所有であった。右建物は、本件地震により、本棚が崩れるなどの被害を受けたが、建物は倒壊することはなかった(甲一二、二五、原告西洋建物代表者)。

(一〇)  建物10のアは、昭和五三年七月一日に建築された木造瓦・スレート葺二階建てで、平成二年二月二〇日、西隣に二階建建物を増築したものであり、建物10のイは、昭和二〇年代に建築された木造瓦葺平家建てで建物10のアの東隣にあり、平成四年七月一五日、原告Dが相続により取得したものであった。建物10のア内には、原告Dの娘の嫁入り道具やコート・着物等の衣類、宝石類、クーラーやテレビ各四台を含む電気製品類があり、建物10のイ内には、着物等の衣類やテレビ二台を含む電気製品類があった。右各建物は、本件地震により、家財の一部が倒れたり、移動するなどの被害を受けたが、建物は倒壊することはなかった(甲一三、三七の1・2、原告D本人)。

(一一)  建物1・2、5ないし9及び10のア・イの各所在位置は、別紙「建物配置図」のとおりであったところ、本件火災は、出火元建物(x)から出火して付近の住居・店舗等一〇二棟、延面積約八五九六平方メートルを焼損し、右各建物及びその内部にあった各家財並びに家財3・4は、いずれも本件火災により全焼した(乙一)。

3 右認定事実によれば、本件各建物のうち、原告Kが所有する建物5は、鉄骨の通し柱の太さが一・二階で二〇センチメートル、三階で一五センチメートルであったところ、本件地震により、北側鉄柱の一・二階の接合部のボルト及び溶接が外れ、南側鉄柱の基礎のアンカーボルトが伸びて建物が浮き上がり、二階部分が一階駐車場にあったトラックに乗り掛かり、基礎から約二〇度傾き、本件火災後、座屈したのである。そうすると、右建物は、本件火災前に、本件地震によって、その基礎及び鉄骨という基幹部分が重大な損傷を受け、二階部分が一階駐車場のトラックに乗り掛かって辛うじて座屈を免れていたにすぎないと考えられる。したがって、二・三階部分に大きな損傷がなかったとしても、いずれ解体・建替えは免れなかったものと推認することができる。そうすると、建物5は、本件地震により建物としての価値を滅失したものといわざるを得ない(原告N本人の供述中には、建物5は、本件火災前は外面は綺麗で傾いていたが潰れているという印象はなかったとする部分があるが、右認定を妨げるものではない。)。

これに対し、その余の各建物は、いずれも本件地震により倒壊することなく、依然として建物としての基幹部分を保持していたものであり、滅失したということはできない。

また、本件各建物内に置かれていた本件各家財等についても、ある程度の被害を受けたことが認められるものの、その価値の大部分は本件地震後も残存していたものと推認することができる。なお、右のとおり、建物5は、本件地震によってその価値を失ったものであるが、住居に使用されていた二・三階部分自体に大きな損傷があったとは認められないことからすると、その内部にあった家財5については、その価値の大部分は残存していたものと推認することができる。

4 そうすると、建物5を除く本件各目的物のうち、本件地震により損傷を受けなかった部分については、本件火災により全焼したため、その価値を失ったものと認めることができる。したがって、右の範囲で本件各目的物に生じた損害は、本件火災に起因するものであり、本件火災と相当因果関係があるということができる。これに対し、建物5について生じた損害は、本件火災と相当因果関係がないから、原告Kの被告三井海上に対する請求中、建物5についての保険金を請求する部分は、その余を判断するまでもなく理由がないことに帰する。

三  被告らの地震免責条項についての検討

1  市民生協・全労済各規約中に被告市民生協・同全労済主張の各地震免責条項が規定されていること、被告保険会社らの各保険約款中に同被告ら主張の地震免責条項が規定されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右各地震免責条項の有効性について

原告らは、地震免責条項は、公序良俗違反により無効であると主張する。しかし、地震火災による損害は、地震の規模・発生場所・発生時間等の要因によって、膨大なものとなる可能性があることは否定できないところ、地震の発生頻度は大数の法則に則っておらず、また、地震危険を感ずる地域、時期だけに保険集団に加入することによって危険の平均化を図るのも困難である。このような理由から地震免責条項が定められていること、一方、地震火災による損害を填補するものとして、別途地震保険制度が設けられていることをも勘案すれば、地震免責条項が、存在理由もなく保険者を利するだけであり、著しく正義に反するものとまでいうことはできない。また、原告らは、地震免責条項の内容が不明確であるとも主張するが、これは、免責条項の適用範囲の問題に帰するものであって、直ちに公序良俗違反の問題を生ずるものではない。したがって、地震免責条項自体が公序良俗に違反して無効であるとの原告らの主張は理由がない。

3  各規約・各保険約款の拘束力について

(一)  市民生協共済契約について

(1) 前記争いのない事実及び証拠(甲一三、乙K一、二、一二の1ないし6、一三の1ないし3、一四、原告D本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

① 被告市民生協の火災共済事業は、市民生協規約に基づいて行われるところ、同規約五条によれば、被告市民生協は、組合員以外の者とは共済契約を締結しないこととされている。

② 被告市民生協の火災共済に加入するには、「貴組合の定款及び共済事業規約の記載内容を了承し、上記の通り共済契約の申込みをします。」と欄外に印刷された申込書に、住所・氏名や共済目的物等の所定事項を記載して申込みを行うところ、右申込書は、(あ) 火災共済契約申込書(控)、(い) 火災共済契約申込書(被告市民生協用)、(う) 火災共済契約証書兼領収証、(え) 課税所得控除火災共済掛金証明書、(お) 「ご契約にあたって」と題するしおりの五部一組の複写式書式(乙K一二の様式のもの)が用いられ、申込者が被告市民生協担当者に共済掛金を支払った場合には、担当者がその場で透明のビニール袋に入れて交付する方法により、また、申込者が銀行口座等からの自動引き落とし等の方法で共済掛金を支払った場合には、郵送の方法により、右(う)ないし(お)の書類を契約者に交付している。

原告Dは、平成四年七月に母親を亡くした後、被告市民生協担当者から継続加入を勧められ、同原告の妻が右申込書に記載して市民生協共済契約を申し込み、担当者から透明のビニール袋に入れた書類(う)ないし(お)の交付を受けたものである。そして、右(お)のしおりには、「共済金をお支払いできない場合」の一つとして、「戦争その他の変乱または地震、噴火によって生じた損害の場合」と市民生協免責条項の概要が記載されている。

(2) 右認定事実によれば、原告Dは、市民生協免責条項を含む市民生協規約による意思をもって市民生協共済契約を締結したものと推定することができるから、右規約は契約内容となっているものと認められ、原告Dは、右規約中の市民生協免責条項の効力を受けるというべきである。

(二)  全労済共済契約について

(1) 前記争いのない事実及び証拠(甲四、乙A一ないし六、一二、一三、一六、原告A本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

① 被告全労済は、生協法に基づいて設立された非営利法人であり、同法の適用を受ける点で、被告市民生協と共通しており、全労済規約五条によれば、共済契約者は、この会の会員である組合の組合員とすることとされている。

② 被告全労済の火災共済に加入するには、労働組合経由で申し込む方法と直接被告全労済に申し込む方法があるところ、直接被告全労済に申し込む場合には、提携金融機関や生活協同組合にパンフレット(乙A一二はその例)とともに備え付けられた申込書に住所・氏名や共済目的物等の所定事項を記載して、共済掛金とともに窓口に提出し、被告全労済がこれを承諾すると、共済証書と「加入者のしおり」(乙A一三はその例)が契約者に送付される。そして、生活協同組合経由で契約を更新する場合には、契約満了日の二、三か月前に、被告全労済から「継続加入申込書」を送付し、増額を希望する場合にはその旨記載し、増額を希望しない場合は押印して窓口に提出し、その後、被告全労済から共済証書が送付されることとされている。

原告Aは、同原告の妻が灘神戸生活協同組合(現「コープこうべ」)「コープ六甲」店から持ち帰ったパンフレットを見た上、平成三年二月三日、「新規にこの火災共済に加入される場合、取り扱い生協のある都道府県労災の組合員になっていただく必要がありますので一〇〇円の出資金を申し受けます。」と欄外に記載された申込書に氏名・現住所、共済契約内容等を記入して申込みを行い、被告全労済は、同月四日、原告Aに火災共済証書と「加入者のしおり」を送付した。その後、原告Aは、平成四年ないし六年の各二月に継続加入申込書を右「コープ六甲」店に提出して契約更新を行い、平成六年三月一日から平成七年二月二八日の共済期間について、「下記内容を全労済の火災共済事業規約に基づき承諾します。」と欄外に記載された火災共済証書(乙A六)の送付を受けている。そして、右「加入のしおり」には、「共済金をお支払いできない場合」の一つとして、「地震もしくは噴火またはこれらによる津波により生じ、または拡大した火災等または風水害等による損害。」と全労済免責条項の概要が記載されている。

(2) 右認定事実によれば、原告Aは、被告全労済の会員組合の組合員になり、全労済免責条項を含む全労済規約による意思をもって全労済共済契約を締結したものと推定することができるから、右規約は契約内容となっているものと認められ、原告Aは、右規約中の市民生協免責条項の効力を受けるというべきである。

(三)  本件各保険契約について

(1) 前記争いのない事実及び証拠(甲五、六の1、七、八の2、九ないし一三、乙B二、三、乙C二ないし六、乙D二の1・2、三、乙E二の1・2、三ないし七、乙F二、乙G三ないし五、七の1、乙H三ないし七の各1・2、乙I二の1ないし4、乙J一)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

① 保険契約2・10の②(被告日動火災)

原告Bが保険期間を平成六年一〇月二日から平成七年一〇月二日までとして平成六年一〇月一日に申込みをした「火災保険契約継続申込書」(乙B二)及び原告Dが保険期間を平成六年一二月三日から平成七年一二月三日までとして平成六年一一月二四日に申込みをした「火災保険契約継続申込書」(乙B三)には、それぞれ欄外に「貴社普通保険約款および特約条項を承認し、下記のとおり保険契約を申込みます。」と記載されている。

② 保険契約3(被告興亜火災)

原告Jが平成四年七月一日、平成五年六月二八日及び平成六年七月一日にそれぞれ同年七月一日から翌年の七月一日までを保険期間として申込みをした「火災保険更改申込書」(乙C三ないし五)には、それぞれ欄外に「貴社の下記保険の普通保険約款および特約条項を承認し、裏面の事項を確認して、次のとおり保険契約を申込みます。」と記載されている。

③ 保険契約4・8の②(被告第一火災)

原告Cが保険期間を平成二年一一月二〇日から平成一二年一一月二〇日として平成二年一一月一九日に申込みをした「マルマル火災(火災相互保険)契約申込書」(乙D二の2)及び原告Nが保険期間を平成三年四月二五日から平成一三年四月二五日までとして平成三年四月一四日に申込みをした「マルマル火災(火災相互保険)契約申込書」(乙D三)には、それぞれ欄外に「貴会社定款および普通保険約款ならびに特約条項を承認し、下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載されている。

④ 保険契約5(被告三井海上)

原告Kが保険期間を平成五年五月一二日から平成一五年五月一二日として平成五年五月一二日に申込みをした建物5及び家財5の各「長期総合保険申込書」(乙E二の1)には、それぞれ欄外に「貴社の下記保険の普通保険約款および特約条項を承認し、下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載されている。

⑤ 保険契約6(被告東京海上)

原告Lが保険期間を平成四年一〇月二九日から平成一四年一〇月二九日として平成四年一〇月一三日に申込みをした「長期総合保険契約申込書」(乙F二)には、欄外に「貴会社の長期総合保険及び地震保険の普通保険約款および特約条項を承認し、下記太枠内の事項を確認のうえ、次のとおり保険契約を申込みます。」と記載されている。

⑥ 保険契約7の①・9(被告同和火災)

原告西洋建物が平成四年四月二二日に保険期間を同日から平成五年四月二二日として申込みをした「火災保険契約申込書」(乙G三)には、欄外に「貴会社の普通保険約款ならびに特約条項を承認し、下記のとおり保険約款を申し込みます。」と記載され、同原告が平成五年四月一九日及び平成六年四月一九日にそれぞれ同年四月二二日から翌年の四月二二日までを保険期間として申込んだ「火災保険契約更改申込書」(乙G四・五)並びに原告Mが昭和五六年三月一六日に保険期間を平成一八年三月一六日として申込みをした「火災保険契約申込書」(乙G七の1)には、それぞれ欄外に「貴会社の普通保険約款ならびに特約条項を承認し、下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載されている。

⑦ 保険契約7の②(被告大東京火災)

原告Mが保険期間を平成二年四月一六日から平成一二年四月一六日として平成二年四月一〇日に申込みをした家財7の「長期総合保険申込書」(乙H三の1)及び保険期間を平成六年五月一〇日から平成七年五月一〇日として平成六年五月九日に申込みをした建物7の「火災保険継続申込書」(乙H四の1)には、それぞれ欄外に「貴会社の右記保険の普通保険約款ならびに特約条項を承認して、下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載されている。

⑧ 保険契約8の①(被告安田火災)

原告Nが昭和五五年一二月四日に保険期間を同日から昭和六〇年一二月四日として申込んだ「住宅金融公庫融資住宅等火災保険申込書」(乙I二の1)には、欄外に「貴社住宅火災保険普通保険約款および特約条項を承認しさらに地震保険に関する約定にしたがって下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載され、右保険契約は、五年毎の昭和六〇年及び平成二年にそれぞれ更新された。

⑨ 保険契約10の①(被告住友海上)

原告Dが平成二年九月一三日に保険期間を同日から平成一二年九月一三日として申込んだ「長期総合保険契約申込書」(乙J一)には、欄外に「貴会社の普通保険約款および特約条項を承認し、下記のとおり保険契約を申し込みます。」と記載されている。

⑩ 本件各保険契約の各保険約款には、「保険金を支払わない場合」として、保険会社ら免責条項が記載されている。

(2) 右認定事実によれば、右原告らは、右各被告らとの間で、保険会社ら免責条項を含む右各被告の保険約款による意思をもって本件各保険契約を締結したものと推定することができるから、右約款は本件各保険契約の内容となっているものと認められ、右原告らは、右約款中の保険会社ら免責条項の効力を受けるというべきである。

(四)  原告らは、被告らが、本件各保険契約等の締結に先立ち、原告らに対し、各規約・約款等の内容を説明しなかったから、右各規約・約款等の内容は契約内容とはならない旨主張し、原告らはこれに沿う供述をし、原告ら及びその妻もしくは代表者の陳述書を提出する。しかし、口頭の説明がなかったとしても、そのことは、原告らが各規約・約款等による意思をもって本件各保険契約等を締結したとの前記推定を覆すに足りるものではなく、他に右推定を覆すに足りる証拠はない。

4  地震免責条項の解釈(適用範囲)について

(一)  市民生協免責条項について

(1) 市民生協免責条項は「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火災等による損害」については、共済金を支払わないと定めている(市民生協規約二〇条一項(5))。

また、市民生協規約は、二条において、被告市民生協は、「共済の目的につき、一定期間内に生じた火災…(以下「火災等」という。)による損害…を共済事故とし、当該共済事故の発生により共済金を支払う」ものとし、「第3章 共済金および共済金の支払」に置かれた二〇条一項(5)は、「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震…によって生じた火災等…による損害」については共済金を支払わない旨定めているところ、二条の2(1)は、「『火災』とは、人の意思に反し又は放火により発生し、人の意思に反して拡大する消火の必要のある燃焼現象であって、これを消火するために、消火施設又はこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とする状態をいう。」と定めている(以上、乙K二)。

(2) 右にみた市民生協規約の規定の仕方及び文言によれば、市民生協免責条項にいう「火災」は、市民生協規約二条の2(1)の定義規定によるものであるところ、右規定は、「火災とは、…発生し、…拡大する…燃焼現象」と定めているのであって、右「火災」は、火元火災及び延焼火災を意味するものと解される。そうすると、市民生協免責条項が免責の対象とする損害は、原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火元火災及び延焼火災によるものを含む趣旨と解することができる。

しかし、右「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた延焼火災」は、延焼の原因が地震に起因するものを免責の対象としているということはできても、その延焼の元となった火元火災が、地震による火元火災であることを要するのか、地震等によらない、もしくは、発生原因不明の火元火災を含むものであるかについては明確であるとはいい難い。

そして、被告市民生協の火災共済事業は、組合員の相互扶助により生活の共済を図ることを目的とし、組合員らは不測の火災損害に対処し得ることを期待して右共済事業に加入するものであるところ、市民生協規約は、その変更等につき監督官庁の認可を要するものとしても(生協法四三条四項)、火災共済契約の内容となる事項を定型的かつ一律に規定したものであるから、そのような契約条項の解釈にあたっては、組合員に不利な類推ないし拡大解釈はすべきでないというべきである。

そうだとすれば、第三類型までを免責の対象とするのであれば、被告市民生協は、これを二義ない形で明確に規定すべきである。ちなみに、保険会社ら免責条項は、「当会社は、次に掲げる事由によって生じた損害(これらの事由によって発生した火災が延焼または拡大して生じた損害、および発生原因のいかんを問わず火災がこれらの事由によって延焼または拡大して生じた損害を含みます。)に対しては、保険金を支払いません。」とし、その事由の一つとして「地震もしくは噴火またはこれらによる津波」と規定するものである。地震免責条項が右のように規定されたのは、従前「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震又は噴火に因って生じた火災及びその延焼その他の損害」と規定していたが、それが、第一類型及び第二類型の他に、第三類型をも含むものであるかについて疑義があったため、昭和五〇年四月一日、右疑義を解消することを理由として改定したのである(弁論の全趣旨)。被告市民生協は、右保険会社における地震免責条項の改定の経緯に照らしても、市民生協免責条項の問題性を認識し、二義を許さない形で設定・変更することが容易にできたものといえる。

したがって、市民生協免責条項が明確でないことによる不利益は、共済事業者であり、市民生協規約作成者である被告市民生協が負うべきものである。

よって、右のように一義的でない規約の免責条項の内容については限定的に解釈すべきであり、市民生協免責条項の対象となる火災は、地震によって生じた火元火災及び右火元火災の地震による延焼火災に限られ、発生原因不明の火災が地震によって延焼したような場合を含まないと解するのが相当である。

(3) 被告市民生協は、自己が非営利法人であること、掛金が安価で資産の蓄積がないこと等を挙げ、市民生協免責条項については、第三類型を含むと解釈すべきであると主張する。

そこで、検討するに、乙K二及び一四によれば、被告市民生協の火災共済掛金は、①平年の共済金の支払にあてられるべき純掛金の額、②異常危険に備えて積み立てられるべき異常危険準備掛金の額、③管理費及び諸費用に充てられるべき付加掛金の合計額とされ、純掛金は、昭和五八年度から昭和六二年度までの五年間における共済金支払高総額を共済契約高総額で除して得られた数をもって純危険率とし、これから平均純危険率を求め、これに安全率を付加するなどして算出することとされている。そして、安全率から算出される純掛金額及び異常危険準備掛金は、平均純危険率から算出される掛金のそれぞれ約六〇パーセント及び約一二パーセントであり、異常危険準備金は、年間共済掛金収入から年間再共済掛金を差し引いた額に達するまで積み立てることとされている。また、各事業年度に法定準備金や教育事業繰越金を積み立てた後、なお差益金があるときは、利用分量に応じて組合員に対し割戻金が支払われることこととされている。一方、被告市民生協は、火災共済事業の募集費として、平成四年度に七四三八万円余りを、平成五年度に七五五三万余りを、平成六年度に六九七四万円余りを、平成七年度に六二一四万円余りをそれぞれ支出し(乙K八ないし一一)、本件地震当時、一八共済生活協同組合が会員となっていた全国共済生活協同組合連合会に加入して再共済を行い、危険分散を図っている。

右にみたところによれば、被告市民生協は非営利法人であり、掛金は比較的簡明に算出される安価な金額であり、各事業年度における割戻金をも勘案すれば、共済加入者が負担すべき金員は更に安価であると認められるが、被告市民生協も組織的に火災共済加入者の募集を行っている上、保険会社が将来の債務の履行に備えて責任準備金の積立てが義務付けられている(保険業法一一六条)のと同様に、責任準備金の積立てが義務付けられ、毎事業年度末には、支払準備金及び異常危険準備金を含む責任準備金を積み立てるものとされ、さらに全国共済生活協同組合連合会に再共済を行って危険の分散を図っているのであるから、共済金の支払につき、被告市民生協の火災共済事業と損害保険業との間に特段の差異があるとはいえない。

したがって、被告市民生協の右主張を採用することはできない。

(二)  全労済免責条項について

(1) 全労済免責条項は、「地震により生じ、または拡大した火災等による損害」については、共済金を支払わないと定めている(全労済規約五四条)。

また、全労災規約は、二条一項(1)において、被告全労災は、共済の目的につき、共済期間中に生じた「火災…(以下「火災等」という。)による損害」を共済事故とし、当該共済事故の発生により契約者に共済金を支払うものとし、同条四項において、同規約における「火災等」とは全労災細則に定めるものをいうと定め、五四条一項(5)において、「地震により生じ、または拡大した火災等による損害」については、共済金を支払わないと定めている。そして、全労済細則二条一項(1)は、「『火災』とは、人の意図に反してもしくは放火により発生し、または人の意図に反して拡大する、消火の必要のある燃焼現象であって、これを消火するためには、消火施設またはこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とする状態をいう。」と定めている(以上、乙A一、七)。

(2) 右にみた全労災規約及び全労災細則の規定の仕方及び文言によれば、全労災免責条項にいう「火災」は、全労災規約二条のそれと同義であり、その定義は全労災細則の定めるところによるところ、これによれば、「火災」とは火元火災及び延焼火災を意味すると解される。そうすると、全労災免責条項が免責の対象とする損害は、地震によって生じた火元火災及び延焼火災と地震によって拡大した延焼火災を含むものということになる。

右の免責条項は、先にみた保険会社ら免責条項程度に明確であるとはいえないとしても、地震によって生じた延焼火災と地震によって拡大した延焼火災とを一応区別して規定しており、これが、火元火災が地震によるものではなくとも、地震によって拡大した延焼火災(第三類型)を含むと解することに支障がないということができる。

ちなみに、被告全労済の地震免責条項は、従前「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震によって生じた火災等による損害」と定められていたところ、被告全労済は、平成三年七月二九日、従前の規定では、発生原因の如何を問わず地震等の異常危険により延焼又は拡大した損害について免責の対象となることが不明確であったため、これを明らかにすることを理由として、厚生大臣に規約変更認可を申請し、同年八月八日、現行の文言に改定したものである(乙A一、八、九)。

確かに、被告全労災の火災共済事業も、組合員の協同による相互扶助により生活の共済を図ることを目的とし、組合員らは不測の火災損害に対処し得ることを期待して右共済事業に加入するものであり、全労災規約は、火災共済契約の内容となる事項を定型的かつ一律に規定したものであるから、そのような契約条項の解釈にあたっては、組合員に不利な類推ないし拡大解釈はすべきでないことは被告市民生協の場合と同様である。その意味で、全労災免責条項の文言は、保険会社ら免責条項ほど明確でも具体的でもない点で、全く問題がないとはいえないが、「地震により生じ、または拡大した火災」との文言上、第三類型まで包含するものと解することが相当であることは前記のとおりである。

(三)  保険会社ら免責条項について

(1) 保険会社ら免責条項は、「地震によって生じた損害(地震によって発生した火災が延焼または拡大して生じた損害、および発生原因のいかんを問わず火災が地震によって延焼または拡大して生じた損害を含みます。)」に対しては保険金を支払わないと定めている。

(2) 右規定の仕方及び文言によれば、保険会社ら免責条項が、第一類型ないし第三類型を免責対象とするものであると解することに支障はないといえる。

原告らは、第三類型が適用されるのは、地震発生前に火災が発生していた場合であり、損保協会もそのように解釈しているから、被告保険会社らは、信義則上、右解釈に拘束されると主張する。

しかし、保険会社ら免責条項の規定文言からすれば、第三類型の要件としては、火災が地震によって延焼または拡大して生じた損害であれば足り、右火災の発生時期は何ら限定されていないのである。また、損保協会広報部に取材した本件地震後の平成七年六月一五日の朝日新聞記事(甲三)には、「火災保険では、地震を原因とする損害(火災損害)には保険金は支払われないことになっています。また、地震で生じた直接の損害だけでなく、地震の前に発生していた火災が地震によって延焼・拡大した損害にも保険金は支払われないことになっています。」との記載があるものの、右は損保協会が第三類型の適用場面の一つを例示したにすぎないものであり、第三類型の適用場面を地震発生前に発生した火災に限定する解釈を示したものではない(乙五一の1・2)。

したがって、原告らの右主張を採用することはできない。

四  本件火災と本件地震との相当因果関係(市民生協・全労済・保険会社ら各免責条項による免責事由の存否)

1  本件地震後の火災発生状況及び本件火災の発生状況等

証拠(甲二、四九ないし五一、乙一、二《右認定に反する部分を除く。》、三、四、三八、四五、四六、四七の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件地震の発生

本件地震は、一月一七日午前五時四六分に発生した、北緯三四度三六分、東経一三五度〇三分、深さ約一四キロメートルを震源とするマグニチュード七・二の地震であり、地殻の浅いところで発生した典型的な都市直下型内陸地震である。本件地震の震度は、本件各建物所在地を含む神戸市周辺において、気象庁観測史上最高の震度七の激震あるいは超震度七と測定された。

(二)  本件地震後の火災発生状況

(1) 神戸市において発生した火災は、本件地震後から一月二七日午前五時四五分までの一〇日間で一七五件であり、その焼損棟数は七〇四八棟、焼損延面積は八一万九二二三平方メートルに上った。

右一七五件の火災を発生時間別及び発生日別にみると、本件地震発生から同日午前六時までに五九件、その後一時間毎に九件、七件、九件と発生し、同日の午前九時以降に二五件、以後一日毎に一四件、一五件、八件、五件、三件、六件、三件、九件、三件と発生した。

(2) 右一七五件の火災のうち、建物火災は一五七件であり、そのうち五六件は本件地震発生から同日午前六時までの一四分間に発生し、その中には、焼損面積が一万平方メートルを超えるものが九件、一〇〇〇平方メートル以上一万平方メートル未満のものが二二件あった。

一月一七日には午前六時以降に四七件の建物火災が発生し、そのうち、焼損面積が一万平方メートルを超えるものが二件、一〇〇〇平方メートル以上一万平方メートル未満のものが九件あった。

(3) 本件各建物所在地である神戸市a区においては、本件地震発生後一月二七日午前五時四五分までの一〇日間で二二件の火災が発生した。

右二二件の火災を発生時間別及び発生日別にみると、本件地震発生から同日午前六時までに一三件、その後一時間毎に〇件、一件、一件と発生し、同日中には午前九時以降に二件、以後一日毎に二件、〇件、一件、一件、〇件、〇件、〇件、〇件、一件と発生した。

そして、神戸市a区においては、本件地震発生から一月一九日までの三日間に発生した火災一九件のうち、本件地震直後から同日午前九時までに一五件の火災が発生しており、右に占める割合は八〇パーセントに達しており、被災地の中で最高比率となっている。また、一八日までに発生した右一九件の建物火災を延焼規模別にみると、一万平方メートルを超えるものが一件、一〇〇〇平方メートル以上一万平方メートル未満のものが八件あった。

(三)  本件地震後の火災の出火原因

前記一七五件の火災のうち、火災原因が判明したものは六八件であり、残り一〇七件は火災原因が判明しなかった。

また、一月一七日中に発生した一〇九件の火災のうちでは、火災原因が判明したものは三六件であり、残り七三件は火災原因が判明しなかった。

右火災原因が判明した三六件を原因別にみると、①電気設備・器具に起因するもの一二件、②電源コードに起因するもの四件、③配線等に起因するもの三件、④燃焼器具に起因するもの一〇件、⑤その他に起因するもの七件である。

(四)  本件火災発生時の出火元建物の状況等

(1) 出火元建物は、本件地震発生から五〇年以上前に建築された五戸一棟の木造二階建てであり、xはその東端に位置し、一階は朝日新聞販売の店舗として、二階は同店を経営するEら家族の住居として利用されていたが、二階は就寝以外には余り利用されていなかった。出火元建物では、Eの父親が一月一七日午前二時ころに起床して一階に降り、新聞配達の準備作業を行っていた。そのため、本件地震発生当時、一階では石油ストーブが使用されていた。なお、Eの父親は、喫煙の習慣をもっていた。

(2) 出火元建物は、本件地震により、壁の一部が剥がれ落ちたり、玄関の戸が歪んで開かなくなったりしたため、Eらはガラスを割って出入りするなどしたが、建物自体は傾いたり、倒壊することはなかった。また、二階の間取りは、南側にベランダがあり、そこから南北方向に六畳、四畳半、四畳半の三部屋であり、右六畳の部屋には洋服箪笥が置かれていたが、本件地震後も倒れていなかった。なお、出火元建物内には、一階にブレーカーがあったほか、本件地震当時、コンセントが差し込まれたままの電気器具として、一階に冷蔵庫やテレビ、二階にエアコンがあったが、右エアコンはほとんど使用されておらず、本件地震当時、電源は入っていなかった。また、一階で使用されていた石油ストーブは、本件地震の揺れによって自動的に消火した。

(3) Eは、本件地震直後、近所に居住する知人のQの安否を確認しに行った後、xに戻り、停電していたため、外の薄明かりの中で室内の片付けをしていた。その後、Eは、外に出て、出火元建物の南側路上で付近住民と立ち話をしていたところ、その住民が本件出火元建物の南西角付近の軒先から白い煙が立ち上っているのを見て、「煙が出ている。」と叫び、右叫び声を聞いたEの父親及び付近住民が、直ちに二階に上がり、消火器を用いて消火にあたったが、そのころには、路上から炎が見える状態となっており、右消火活動は効果がなかった。そのため、Eは、同人の父親から指示されて、バイクでa消防署に駆け込み、火災通報した。

(五)  本件火災出火時の通電状況

本件火災現場を含む地域への送電は、本件地震発生と同時に停止され、送電が再開されたのは本件地震当日午前八時二一分であった。

本件火災現場を含む地域への配電用変電所はw変電所であり、同所への供給変電所は、二次変電所であるz変電所であって、右系統は本件地震後も変更されることはなかった。z変電所は、兵庫制御所から遠隔制御されている無人変電所であるところ、本件地震により主要変圧器の基礎アンカーボルトが破断し、本体滑動の被害を受けて全停電した。しかし、z変電所への送電線は異常がなかったため、基幹系統給電所は、同日午前七時五四分、z変電所に充電を行い、z変電所では、損傷しなかった主要変圧器を用いて同日午前八時二分から配電用変電所を数か所に分割してその負荷量を確認しつつ、送電を開始した。そして、新開地等の一一変電所に送電された後、旭、箕谷等の八変電所とともにw変電所へも送電された。同変電所から各家庭に配電されるためには、受電遮断器を投入しなければ、各家庭に配電されない仕組みになっているところ(甲五一)、w変電所では、葺合制御所からの遠隔操作により、同日午前八時二一分に受電遮断器が投入された。なお、各家庭まで配電されるには、変電所からの配電線に事故点がないことが必要である上、柱上に設置されている自動開閉器が各七秒で順次充電される必要がある。

(六)  本件火災出火時の気象状況

本件火災出火時の気象状況は、天候曇り、風向は北東で風速毎秒四・六メートル、気温三・四度、相対湿度五四パーセント、実効湿度五九パーセントであり、津波注意報が出されていた。

(七)  a消防署の出火原因調査

a消防署長作成名義の火災調査報告書(乙一)では、本件火災の覚知は一月一七日午前八時一〇分で、出火は同日午前八時ころとされているが、出火箇所、発火源、着火物及び着火経過はいずれも不明とされ、その根拠として、特記事項欄に「震災後、一時的に通電したため、半断線状態となった屋内配線から出火した可能性もあるが、確証が得られず、原因不明であるもの。」と記載され、a消防署消防指令補R作成の「火災原因認定書2」には、「建物残存物がなく、実況見分及び発掘調査等を行っていないため、焼き状況の比較検討による認定はできないものである。」との旨が記載されている。

2  右認定事実に基づき、本件火災の発生と本件地震との間に相当因果関係があるかを検討するに、a消防署が本件火災を覚知したのは本件地震当日午前八時一〇分であり、右覚知は、Eの駆け込みによる通報であること、本件火災の出火確認後、Eの父や付近住民が出火元建物の二階に上がり、消火器で消火活動をしたこと、その時点で既に消火困難な程度の火勢が生じていたことが認められることからすれば、本件火災は、出火元建物二階部分から出火したものであり、同日午前八時ころまでには出火していたものと推認することができる。ところが、出火元建物二階は、普段寝室として使用されており、特に火源となるようなものは認められず、また、Eの父は喫煙をするものの、同日午前二時ころには起床して一階で作業していたのであるから、喫煙による出火であると認めることはできない。

また、出火元建物二階には、コンセントが差し込まれたままのエアコンがあったが、出火元建物への通電が再開されたのは、同日午前八時二一分であることは前記のとおりであって、それ以前の通電は先にみたところによれば、技術的に困難であるといえる。そして、出火元建物は、本件地震後も、玄関の戸に歪みを生ずるなどしたものの、建物自体に目立った損傷は認められないことからすれば、屋内配線等が損傷していたと直ちにいうこともできない。したがって、本件火災が、出火元建物の損傷した電気配線に送電されたことによって発熱、短絡が起こり、付近の可燃物に着火したことによるものと認めることも困難である。

3  被告市民生協は、本件地震のような大規模な地震が発生した場合、地震の影響により出火原因を究明することは不可能であり、出火原因不明で地震による火災と認められないとすれば、相当因果関係の立証につき不可能を強いることとなるから、地震により全壊状態となった建物から、地震後二時間後に発生した火災は、特段の事情がない限り、地震による火災と事実上推定され、本件火災には、右特段の事情がない旨主張する。

確かに、前記認定のとおり、本件地震が観測史上最高の震度七あるいは超震度七の激震であり、本件地震後一〇日間に発生した火災一七五件のうち、火災原因が判明したものは六八件にすぎず、残り一〇七件は火災原因が判明していないこと、本件火災原因の調査についても、火災直後の発掘等ができなかったことなどに照らせば、本件地震後に発生した火災の出火原因調査は相当困難であったものといえる。しかし、そのことを理由に、本件火災が本件地震によるものであることの立証責任を軽減するとすれば、通常、被告らに比して、調査のための能力・組織において劣る契約者に本件火災が地震以外の原因によるものであることを調査、解明すべき負担を強いることになり、相当でないから、被告市民生協の右主張を採用することはできない。

そして、本件火災は、本件地震発生の約二時間後に発生したものであるが、前記認定事実によれば、出火元建物では、本件地震発生時に既に相当の人為的活動が行われていたと認められる上、本件火災発生前にも相当の人為的活動が行われていたのであって、本件地震による出火元建物の損傷程度等をも考慮すれば、本件火災が本件地震によって発生したと直ちに推定することはできないというべきである。

4  他に、本件火災が本件地震によって間接的に生じたことを認めるに足りる証拠はない。

5  以上のとおりであるから、その余を判断するまでもなく、被告市民生協免責条項は、本件火災により原告Dが被った損害について、その適用を認めることはできないというべきである。

五  本件火災は本件地震に起因する延焼火災といえるか(全労済・保険会社ら免責条項の適用の可否)について

1  証拠(甲四、五、六の1、七、八の1、九ないし一三、一五、一八の1・2、乙一、三、四、五の1ないし3、四八の1・2、四九の1ないし3、原告J、同B、同C、同N、同K、同L、同A及び同D各本人、同西洋建物代表者)及び弁論の全趣旨によれば、当時の消防体制、現場における消火活動等について、以下の事実を認めることができる。

(一)  神戸市及びa消防署における消防体制について

(1) a消防署では、火災通報があれば、通常、ポンプ車等の放水を担当する車両を四台出動させ(第一出動指令)、建物が炎上している場合には、他の消防署からの増援を求める第二出動指令をかけて、さらにポンプ車等を四台追加し、合計八台が出動する。ポンプ車等には、一台につき最低でも四人の消防隊員が乗車し、火災現場において二線放水を行うのが原則である。したがって、通常の建物火災の場合、一六線放水の態勢で消火活動を行うことになる。

(2) a消防署には、普通ポンプ車一台、小型ポンプ車四台、化学車、はしご車、救助工作車各一台の合計八台の消防車が保有されていた。

(3) 神戸市の消防水利の主なものは、消火栓、防火水槽、プール、河川、池、海等であるが、上水道に設置されている消火栓が消防水利全体の約八五パーセントの割合を占めていた。a消防署管内では、公設及び私設消火栓数はそれぞれ一六一四、七九であり、公設及び私設防火水槽数はそれぞれ七七、二三であった。

(二)  本件火災発生の際の現場状況等について

(1) 本件各建物と出火元建物との位置関係は、別紙「建物配置図」記載のとおりであり(ただし、建物2の北側にはS方とT方との間に、Gアパートが存在していた。)、出火元建物は、神戸市a区b町d丁目mの街区の南西部に位置している。本件火災現場は、a消防署の北東約三〇〇メートルに位置する第二種住居専用地域で、木造家屋が多く建ち並んでおり、同街区の南側は幅約五メートルの道路を隔てて同区q町n丁目に、西側は幅約五メートルの道路を隔てて同区b町g丁目に隣接している。

(2) 本件地震により、神戸市内では六万七四二一棟が全壊し、五万五一四五棟が半壊したところ、特にc区からa区にかけてのs電鉄t線とu電鉄t線に挟まれた地域の被害が甚大で、本件火災現場は右地域内に位置している。また、本件火災現場を含むa区内では、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物も相当数倒壊し、本件火災現場付近でも倒壊した建物があった。

(三)  本件火災現場の消火活動について

(1) a区管内では、本件地震発生直後の午前五時五〇分ころ、既に一三件の火災が発生し、そのうち一一件は、本件火災発生時も鎮火されていなかった。その中には、本件地震直後に神戸市a区o町p丁目付近で発生し、鎮火までの焼損面積が二万九一六〇平方メートルとなったものや九七四四平方メートルとなったものもあった。

右火災の消火活動のため、a消防署の消防車両及び隊員はほぼ全員出動していたが、同署で勤務中であった消防司令Uは、同日午前八時一〇分、Eの駆込み通報を受けた後、非常召集により同署に参集していたV主任及び乙消防署のW士長とともに、午前八時二〇分ころ、はしご車に可搬式動力ポンプを積載して出動した。

(2) 本件火災現場付近周辺には、別紙「消火栓及び防火水槽設置位置図」及び「防火水槽設置一覧表(甲一八の1)」記載のとおり、消火栓及び防火水槽が存在していたが、消火栓は断水によりほとんど使用できなかった。また、防火水槽一覧表記載の防火水槽は、水利区七三水利番号三九(以下、防火水槽は区番及び番号の数値のみで表示する。)の四〇トン容量の防火水槽が使用できず、七五区四二番の五〇トン容量の防火水槽及び五八区二六番の八八トン容量の防火水槽が一部使用できなかったが、他は使用することに支障はなかった。そこで、Uらは、出火元建物から直線距離で約一八〇メートルの距離にある八九区五〇番の一五トン容量の防火水槽(別紙「最終焼損区域図」参照)に部署したが、その時点で、本件出火元建物は炎上し、東接しているX方にも延焼して、黒煙を上げていた。なお、そのころ、消防団員らにより、神戸市a区b町d丁目mの街区の南東角にあった消火栓からホースが延長され、水圧は低かったものの、しばらくは右X方に放水することができた。その後、風向が西に変わり、Uらが、八九区五〇番の防火水槽から出火元建物付近に北西側からホースを延長してきたころには、出火元建物の西側に位置する数軒の建物に延焼しており、炎と黒煙が激しく噴出し、さらに西側へ拡大しようとしていた。

(3) Uらは、一線放水で放水を開始したが、激しくなった火勢に対して全く劣勢であり、右防火水槽の水も約三〇分でなくなった。そこで、Uらは、神戸市a区q町g丁目の七四区四〇番の五〇トン容量の防火水槽に転じて部署し、本件火災現場の西側から消火活動を行っていたところ、同日午前九時ころには、同区o町p丁目付近で発生した火災のため、七五区四e番の一〇〇トン容量の防火水槽に部署していたポンプ車から、本件火災現場にホース延長が行われ、一線放水で応援した。なお、右ポンプ車は、右防火水槽の水がなくなった後は、出火元建物から直線距離で約二七五メートルの距離にある神戸市立r小学校のプールに部署して消火活動を行った。同日午前一一時ころには、a消防署の消防団の一つである第八分団が、可搬式動力ポンプを積載して出火元建物から直線距離で約一三五メートルの距離にある同区甲通d丁目の七三区三八番の八三トン容量の防火水槽に部署して本件火災現場の南西側からホース延長を行い、一線放水で応援に加わったが、火勢を押さえることはできず、炎は、幅五メートル道路を越えて同区b町g丁目及びq町n丁目に拡大するとともに、出火元建物の北側にも拡大していった。なお、このころには、本件火災現場付近には、ホース延長等の消火活動を行う消防団員等が二〇名以上参集していた。

(4) 一月一七日午後から、風向が北東に変わったため、炎の拡大方向も出火元建物から北側及び東側に転じた。しかし、消火活動の効果もあって、東側方向では、同日午後零時ころ、出火元建物の東側四軒目の戊方(別紙「建物配置図」参照)で一旦鎮圧されたかに見えた。ところが、再び、その東隣のY方に延焼を開始し、それに対して二線放水により防御活動がされたが、炎はさらに東へ拡大していき、また、出火元建物から北側に延焼していた炎により、同日午後二時ころ、建物3に延焼し、同日午後二時三〇分ころ、建物1に延焼した。その後、炎は、さらに東に拡大していったが、建物2の西側に存するH方及び北側に存するGアパートに消火活動を行った結果、同日午後四時ころ、同所で一応鎮火し、原告Bは、建物の戸締まりなどを確認した上、避難所とされていたr小学校に避難した。

(5) 一方、出火元建物から北側に拡大していた炎は、前記の消火活動にもかかわらず、北東方向に拡大していき、同日午後二時ころから午後三時ころにかけて、建物10のア・イに延焼し、また、建物7から建物9へ、建物6から建物8へと延焼拡大し、建物5も東側からの延焼拡大により焼失した。なお、a区管内においては、同日午後三時ころ、本件火災発生後に発生した火災を含め、なお一〇件の火災が鎮火されていなかった。

(6) ところが、同日午後八時ころ、建物2にも着火し、消防車両一台が出動して消火活動をしたが、建物2に東接するG接骨院への延焼は食い止めたものの、建物2は全焼した。

(7) 以上の消火活動により、一月一七日夕方には、別紙「最終焼損区域図」の斜線部分で延焼を阻止することができたが、同区域内で再三にわたり再燃があり、消防隊員らは、その都度防火水槽から取水して消火した。結局、本件火災が最終的に鎮火されたのは一月二〇日午後五時であり、消火活動には合計九基の防火水槽が使用されたが、本件火災により、神戸市a区b町d丁目一・二の街区、同g丁目一の街区、同g丁目二の街区の乙マンションの一部及びq町n丁目jの街区に存する建物のうち、全焼八五棟、部分焼一七棟、車両三台を焼損し、焼損面積は八五九六平方メートルに上った。

2  右認定事実に照らして、本件各建物の延焼と本件地震との相当因果関係を検討する。

(一)  原告C所有の家財4について

右認定事実によれば、本件火災出火後、Eらが消火器を用いて消火することができなくなった後、Eがa消防署に駆込み通報し、Uらは、はしご車に可搬式動力ポンプを積載し、一〇分後に出動したのである。そして、Uらが八九区五〇番の防火水槽に部署しているころには、火災は出火元建物から東接建物に延焼しており、火勢は相当強くなっていたものと推認されるのである。その後、風向が西に変わったため、右防火水槽からホース延長をしたころには、既に出火元建物の西側数軒にも延焼していたのであるから、そのころには、原告Cの借家も延焼していたものと推認される。そうすると、本件火災を消防隊員が現認した時点では、火勢は既に相当の勢いとなっていたところ、消防署に通報する前に、住民らが消火器を用いて消火しようとすることはむしろ当然のことであるから、これをもって通報が遅れたということはできないし、本件地震により、電話ではなく駆込み通報となったとしても、本件出火元建物からa消防署までの距離がわずか約三〇〇メートルであることからすれば、通報に要する時間が特に遅延したものともいえない。もっとも、本件火災当時、a区内で他に一一件の火災が未鎮火であり、ポンプ車等がそれらの火災鎮圧のために出動済みであったため、通報を受けたa消防署は、直ちにポンプ車等を出動させることができなかったのである。このことからすれば、通常の消防体制が確保されていれば、直ちにポンプ車等を出動させ、消火栓から取水して消火活動にあたることにより、原告Cの借家への延焼を防止できた可能性がないとはいえない。しかし、出火元建物と原告Cの借家は、五戸一棟の木造建物であることや消防隊員が現認した時点で既に火勢は相当強くなっていたことからすれば、通常の消防体制であったとしても、ほぼ確実に原告Cの借家への延焼を防止できたとまで認めるのは困難である。したがって、原告C所有の家財4の焼失と本件地震との間に相当因果関係を認めることは困難である。

(二)  原告B所有の建物2について

右認定事実によれば、本件火災は、一月一七日午後四時ころ、建物2の西隣のH方及び北隣のGアパートで一旦は鎮火したのである。そして、同日午後八時ころ、原告Bがr小学校に避難していた間に再燃し、消防車両一台が出動して消火活動を行ったものの、全焼してしまったというのである。そうすると、右時刻には、本件火災現場への消防車両の出動について、本件地震の影響もある程度解消していたと推認される。そして、右再燃当時、原告Bは建物2から避難していたのであるが、消防車両が消火活動に当たり、隣接建物への延焼を防止していることからすれば、比較的早い段階で右再燃した火災に対する消火活動が開始されたものと推認することができるのであって、特に通報が遅延したとの事情もうかがうことができない。したがって、建物2の焼失と本件地震との間に相当因果関係を認めることは困難である。

(三)  その余の原告らの本件各目的物について

前記認定事実によれば、その余の原告らの本件各目的物は、いずれも一月一七日午後になってから焼失したものであるところ、本件火災の出火時刻は同日午前八時ころであり、その延焼までには相当の間隔があったものである。しかるに、本件火災出火時には、本件地震直後に発生した他の火災の消火活動などのため、ポンプ車等の放水を担当する車両はすべて出動中であり、しかも、本件火災後に発生した火災を含め、右原告らの本件各目的物が延焼した同日午後三時ころにも、なお一〇件の火災が鎮火されていなかったのである。そして、本件火災の消火活動において、使用可能な防火水槽からの採水による放水により、一時的にせよ火勢を鎮圧することもできていたことを勘案すれば、消火栓が使用可能であり、また、通常の消防体制である四台の消防車両による八線放水もしくは第二出動司令に基づく一六線放水ができていたとすれば、本件各目的物に延焼する以前に、本件火災を完全に鎮火することができた高度の蓋然性があったものといえる。そうすると、本件各目的物への延焼は、本件地震のために消火栓が使用不能であったこと及び本件地震直後に発生した一三件の火災の消火活動にも消防力を割かなければならなかったことによるといえる。したがって、本件各目的物への延焼は、本件地震と相当因果関係があると認めるのが相当である。

3  原告らの主張について

(一)  原告らは、消火栓は使用できたし、消防能力も消防団員らを含めると通常の消防体制と大差がなかったから、本件火災が延焼した主たる原因は、本件火災現場が木造家屋密集地であったことや当日の風が強かったことなどにあり、本件地震による影響はほとんどなかったと主張する。

(二)  しかし、前記認定したとおり、神戸市a区b町d丁目一の街区の南東角に存する消火栓から不十分ながら放水できたとしても、ほとんどの消火栓は断水により使用不能であったのである。また、消防車両による放水は三線放水に止まっていたのであって、消防団員らが本件火災現場に多数参集していたことから、消防能力が通常どおりであったということはできない。

確かに、本件火災現場が木造建物の密集地であり、当日の風が強かったことが、本件火災の延焼拡大の促進要因となったことは否定できない。しかし、前記のとおり、当日午後からは、消防活動によっていったんは鎮火をみるなど、延焼防止に効果を上げていたとみられることからすれば、右の促進要因は、通常の消防体制をもってしても延焼を防止できなかったといえるほどの促進要因であるとはいえず、本件火災の延焼と本件地震との間の相当因果関係を遮断するものとまではいうことができない。したがって、原告らの右主張を採用することはできない。

(三)  また、原告らは、神戸市の防災対策の不十分や消防方針の不適切も本件延焼の原因であると主張する。

そこで検討するに、証拠(甲一四、五四)によれば、神戸市の面積は、尼崎市の一〇倍以上、西宮市の五倍以上であるが、消防ポンプ車の保有数は、神戸市が五六、尼崎市が七六、西宮市が五三であり、そのうち消防団管理数は、神戸市が七、尼崎市が五八、西宮市が三八であること、西宮市消防局では「一火災現場一ポンプ」を基本戦術とし、平成六年九月に「異常渇水に伴う特別消防体制」として自然水利の確保と有効活用を図るための部隊運用や積載ホースの増加、土嚢等の資機材の増強等を通知徹底したこと、神戸市では、本件地震発生後午前六時までに発生した火災のうち、火災規模が火元単体にとどまったものは全体の約三分の一であり、約半数は、焼損面積一〇〇〇平方メートル以上の大規模火災に拡大したのに対し、尼崎市・西宮市を含む神戸市周辺地域では、同時間帯に発生した火災でも七一パーセントが単体火災であり、焼損面積一〇〇〇平方メートル以上の火災は三パーセントであったことの各事実を認めることができる。しかし、前記認定の本件火災現場周辺の消火栓及び防火水槽の設置状況や本件火災の延焼過程等に照らせば、神戸市においても、平常時であれば本件火災の延焼は十分阻止し得たというべきであるから、右の他市との比較から、直ちに、神戸市の防災対策や消防活動方針が本件地震と本件火災による延焼との間の相当因果関係を遮断するほど重大な要因であるということはできない。

4  以上のとおりであるから、原告C所有の家財4及び同B所有の建物2の延焼は、本件地震と相当因果関係がないが、その余の原告らの所有もしくは占有する本件各目的物の延焼は本件地震と相当因果関係があるものといえる。なお、原告らは、本件火災の延焼拡大の原因につき、人為的・自然的要因等が寄与したものであるから、右寄与度に応じた相当因果関係が認定されるべきであると主張するが、原告らの右主張を直ちに採用することはできない。

よって、その余の原告らの本件各目的物の焼失については、全労済及び保険会社ら免責条項が適用されるから、その余の点について判断するまでもなく、同原告らの共済金及び保険金請求はいずれも理由がないことに帰する。

六  原告D、同C及び同Bの損害額について

1  原告Dについて生じた損害

(一)  前記認定事実及び証拠(甲一三、原告D本人)によれば、原告Dは、平成四年七月に、市民生協共済契約の申込みをして被告市民生協はこれに応じ、本件火災発生時の保障額は、建物10のア・イにつき五〇〇万円、家財10のア・イにつき五〇〇万円となっていたことを認めることができる。

そして、原告Dが、右契約に際して、殊更、目的物の価値に相当するよりも多額の共済掛金を負担すべき理由はうかがわれず、本件地震までに建物10及び家財10の各ア・イの状況が大きく変更されたことは認められないことからすれば、建物10及び家財10の各ア・イは、本件地震当時、少なくとも右各保障額を下らない価値を有していたものと推認することができる。

(二)  しかし、前記認定したように、本件地震の規模、建物倒壊状況等を考慮すれば、倒壊しなかった建物といえども多少の損傷被害を受け、その建物内にあった家財も右損傷の程度に応じて相応の損傷被害を受けたであろうことが容易に推測されるのである(これによる損害は、本件地震の地震動による直接的な損害であり、本件火災との間に相当因果関係を認めることはできないから、市民生協共済契約及び本件各保険契約による共済・保険事故とは認められない。以下、原告C及び同Bについても同様である。)。そして、右各建物は、本件地震により、倒壊こそしなかったものの、家財の一部が倒れたり、移動するなどの被害を受けたのである。

そうすると、建物10及び家財10の各ア・イの本件火災当時の価値は、本件地震によりいずれも前記価値の八割程度になっていたと認めるのが相当であり、原告Dが本件火災によって被った損害額は、建物10のア・イにつき四〇〇万円、家財10のア・イにつき四〇〇万円の合計八〇〇万円であったと認めるのが相当である。なお、原告Dは、火災共済金の請求が認められたときには、その内金に充当することを確認した上、震災特別見舞金として、被告市民生協から四一万円を受け取った(甲一三)。

2  原告Cについて生じた損害

(一)  前記認定事実及び証拠(甲七、原告C本人)によれば、原告Cは、平成二年一一月一九日に保険金額の増額を申し込んで被告第一火災はこれに応じ、本件火災発生時の保険金額は、家財4につき八〇〇万円となっていたことを認めることができる。

そして、原告Cが、右契約に際して、殊更、目的物の価値に相当するよりも多額の保険料を負担すべき理由はうかがわれず、本件地震までに家財4の状況が大きく変更されたことは認められないことからすれば、家財4は、本件地震当時、少なくとも右保険金額を下らない価値を有していたものと推認することができる。

(二)  しかし、前記認定したとおり、家財4が置かれていた原告Cの借家建物は、倒壊こそしなかったものの、屋根瓦がずれてその一部が落ちるなどの被害を受け、家財4も店舗内の化粧品などが棚から落ちて散乱するなどの被害を受けたのである。

そうすると、家財4の本件火災当時の価値は、本件地震により前記価値の七割程度になっていたと認めるのが相当であり、原告Cが本件火災によって被った損害額は、家財4につき五六〇万円であったと認めるのが相当である。なお、原告Cは、地震火災費用保険金として、被告第一火災から四〇万円を受け取った(甲七)。

3  原告Bについて生じた損害

(一)  前記認定事実及び証拠(甲五、原告B本人)によれば、原告Bは、平成六年一〇月一日に保険契約2の申込みをして被告日動火災はこれに応じ、本件火災発生時の保険金額は、建物2につき二一〇〇万円、家財2につき九〇〇万円となっていたことを認めることができる。

そして、原告Bが、右契約に際して、殊更、目的物の価値に相当するよりも多額の保険料を負担すべき理由はうかがわれず、本件地震までに建物2及び家財2の状況が大きく変更されたことは認められないことからすれば、建物2及び家財2は、本件地震当時、少なくとも右保険金額を下らない価値を有していたものと推認することができる。

(二)  しかし、前記認定したように、建物2は、本件地震により倒壊こそしなかったものの、家財2は食器棚の食器が破損したり、洋服箪笥が倒れるなどの被害を受けたのである。

そうすると、建物2及び家財2の本件火災当時の価値は、本件地震によりいずれも前記価値の八割程度になっていたと認めるのが相当であり、原告Bが本件火災によって被った損害額は、建物2につき一六八〇万円、家財2につき七二〇万円の合計二四〇〇万円であったと認めるのが相当である。なお、原告Bは、平成七年三月三〇日、地震火災費用保険金として、被告日動火災から一五〇万円を受け取っている(甲五)。

七  損害賠償請求について

1  原告らは、本件各保険契約等が約款取引であり、情報量において圧倒的に原告らが被告らに劣後することや募取法一六条一項一号などを根拠として、契約締結にあたっての自己決定権の実質的保障のため、被告らは、信義則上、地震免責条項の存在とそれが適用される具体的場合や発動の可能性について説明義務を負い、これを怠った場合には、火災保険金相当額もしくは地震保険金相当額の損害賠償義務を負うと主張する。

2  確かに、募取法一六条一項一号が「保険契約の契約条項のうち重要な条項を告げない行為」を禁止している趣旨は、保険契約者に当該重要事項を認識、理解させることにより、保険契約者が不測の損害を被ることを防止するためであることからすると、保険事業者は、保険契約により担保される損害の範囲を画する地震免責条項については、その存在及びそれが適用される具体的場合について明確に説明することが望ましいといえる。しかし、火災保険制度においては、既に長年にわたって地震免責条項が用いられており、本件各保険契約等においても、その文言に差異はあるとしても、監督官庁の認可等を得て、例外なく地震免責条項その他の免責条項が定められているのである。このことからすれば、火災保険契約者にとって、地震免責条項の存在は予測可能であったと考えられるし、先に認定・判断したとおり、本件各保険契約等は各規約・約款等による意思をもって締結されたものと推認されることをも勘案すれば、被告らに地震免責条項を説明すべき信義則上の義務があるとまではいえない。なお、火災保険契約者が、地震免責条項の説明を受けた場合、地震保険を付帯するかどうかについての意思決定になにがしかの影響を与えられる可能性は否定できない反面、右にみたことに照らせば、その説明を受けなかったとしても、火災保険の加入あるいは地震保険の付帯についての自己決定権を侵害されたとまでいうことはできない(少なくとも本件に関しては、地震免責条項の規定されていない火災保険は存在しない。)。したがって、原告らの右主張を採用することはできない。

八  一部弁済・損益相殺について

1  原告Dについて

前記認定事実によれば、原告Dは、本件火災により、合計八〇〇万円の損害を被ったものであるところ、被告市民生協から、火災共済金の請求が認められたときにはその内金に充当することを確認した上、震災特別見舞金として四一万円を受け取ったのであるから(甲一三)、右は火災共済金の一部弁済に当たり、原告Dの火災共済金額は右を差し引いた七五九万円であると認めるのが相当である。

2  原告Cについて

前記認定事実によれば、原告Cは、本件火災により、五六〇万円の損害を被ったものであるところ、被告第一火災から、地震火災費用保険金として四〇万円を受け取ったのである(甲七)。しかるに、被告第一火災の火災相互保険普通保険約款(乙D一)によれば、地震火災費用保険金は、地震を直接または間接の原因とする火災によって保険の目的が損害を受けた場合に支払われるものであるから、本件火災による延焼を原因として支払われたものであることが明らかである。したがって、地震火災費用保険金は損益相殺の対象となるというべきであり、原告Cの保険金額は右を差し引いた五二〇万円であると認めるのが相当である。

3  原告Bについて

前記認定事実によれば、原告Bは、本件火災により、合計二四〇〇万円の損害を被ったものであるところ、被告日動火災から、地震火災費用保険金として一五〇万円を受け取ったのである(甲五)。しかるに、被告日動火災の住宅火災保険普通保険約款(乙B一)によれば、地震火災費用保険金は、地震を直接または間接の原因とする火災によって保険の目的が損害を受けた場合に支払われるものであるから、本件火災による延焼を原因として支払われたものであることが明らかである。したがって、地震火災費用保険金は損益相殺の対象となるというべきであり、原告Bの保険金額は右を差し引いた二二五〇万円であると認めるのが相当である。

九  遅延損害金の起算日及び率について

1  請求原因1(四)の事実については、当事者間に争いがないところ、被告市民生協は市民生協規約二三条三項により、右請求のの日である平成七年二月二八日から三〇日経過後である同年三月三一日から共済金支払債務について遅滞の責を負い、被告第一火災は火災相互保険普通保険約款一九条により、被告日動火災は住宅火災保険普通保険約款二一条により、右請求の日である平成七年三月二二日から三〇日経過後である同年四月二三日から保険金支払債務について遅滞の責を負うと解すべきである。

2  原告らは、本件共済金及び保険金請求の附帯請求として、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、被告日動火災と原告B間の保険契約2は、営業的商行為であって(商法五〇二条九号)、同法五一四条が適用され、被告第一火災と原告C間の保険契約4は、保険業法二一条二項により商法五一四条が準用されるのであるから、右被告らの遅延損害金は商事法定利率による。

しかし、被告市民生協の共済契約そのものは絶対的商行為に該当するものではない。営業的商行為とされる「保険」は、営利保険を引き受ける契約をいうものであるところ、被告市民生協の火災共済事業等は営利を目的とするものではないから(生協法九条参照)、市民生協共済契約は、商法上の「保険」であるとはいえないし、また、被告市民生協は、右共済契約を「営業として」行っているものでもないから、営業的商行為であると認めることはできず、被告市民生協を商人であるということはできない。そして、原告Dが商人であることの主張・立証もないから、本件共済契約を附属的商行為とみることもできない。

したがって、原告Dの主張する商事法定利率による遅延損害金の請求は理由がなく、当事者間に特段の合意がない以上、右遅延損害金については民法所定の年五分の割合によるべきである。

一〇  結論

以上によれば、原告らの請求は、原告Dが被告市民生協に対し、市民生協共済契約に基づく共済金として七五九万円及びこれに対する弁済期後である平成七年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告Cが被告第一火災に対し、火災保険契約に基づく保険金として五二〇万円及びこれに対する弁済期後である同月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告Bが被告日動火災に対し、火災保険契約に基づく保険金として二二五〇万円及びこれに対する弁済期後である同月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから認容し、右原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

〈編注:原文に裁判官名の記載なし。〉

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